今回は、大阪市北区中之島で行われた「看護医療ゼミ」をレポートします。会場となった大阪市中央公会堂は国の重要文化財に指定されており、大正ロマンあふれるネオ・ルネッサンス様式の歴史的建築物は、大阪の知と文化のシンボルとして親しまれています。これからの看護を考え、医療と介護の橋渡し役として現場を担う看護師たちの奮起出発の場として今回、歴史あるこの場所が選ばれました。
現場の声から生まれた発想や着目点を基軸に繰り広げられる今回のセミナーは、少人数でアットホームな雰囲気でありながら、とても実践的で参考になる気づきも多く、大きな手応えを感じられるものでした。コミュニケーションスキルを上げるトークキングワークや、聞き応えのある講義の内容を、全2回の特集記事として前編と後編に分けてご紹介します。

福祉看護師ってなんだろう?
在宅や施設での看護サービスが定着しつつある近年、利用者の「生活」を医療面で支援するだけでなく、そこに存在する介護との橋渡しを通して「全人的」な看護を提供する「福祉看護師」の存在が注目されつつあります。「医療、介護、そして在宅ケア。それぞれ別々だったこれらのシーンをつなげる」。それこそが本来の看護師が理想とする姿なのかもしれません。
今回のセミナーで講師を務める野田先生は、血液透析センターに20年以上勤務し、その現場で経験したことをベースに、医療や看護、そしてそれを取り巻く法的環境などの問題を総合的に考えてこられた方です。原点は「看護師として自分はどうなりたいの?」という視点だと語る野田先生。「在宅・施設看護とは?」「病院と在宅では何が違う?」など、常に自分に問いかけながら、今まで立ち続けてこられた現場での経験を伝えてくださいました。

2025年問題、時代は在宅医療へ
介護のニーズが増す一方で、病院に勤務しながら「このままでいいの?」とお悩みの看護師さんは少なくないでしょう。それもそのはず、現在は超高齢社会への過渡期にあり、いわゆる「2025年問題」はすぐそこまで来ています。15~64歳の人口が7000万人まで落ち込むと同時に、65歳以上の人口が3500万人を突破。2025年には1947~49年生まれの団塊の世代約800万人が75歳を超えて後期高齢者となり、国民の3人に1人が65歳以上となります。政府の統計予測では、5人に1人が75歳以上の時代になるということ。居宅サービスはますます増える見込みで、時代のニーズは確実に在宅医療へとシフトしていくでしょう。
こうした中、地域包括ケア構想の主軸たる看護師の役割もより高まっていくのは想像に難くありません。今回のセミナーでも最初に、私たちを取り巻く社会的背景を考察しながら、これからの看護に必要な視点を確認することからはじまりました。受講者のなかには、すでに介護の現場で「どうしたらもっとうまくできるの?」と感じている方、訪問看護に興味があるけれど、今一歩踏み出せていないという方も・・・。経験や立場の違う様々な受講者がクロスオーバーで情報交換できる良い機会となっていたようです。

在宅・施設看護師の役割について考えてみる
セミナーの前半ではまず、在宅や介護施設における看護師の基本的な役割をいちから整理して考えることから始まりました。在宅や施設での看護には、通常のナーシングに加えてヘルパーやご家族への指導を通して看護知識を普及する役割が求められます。ケアマネージャーの作成するケアプランを軸として重症化を予防する、あるいは自立支援に繋げる段階で、医療面からこれをサポートし、正しい処置やそのメリット、さらにリスクヘッジのための家族指導やヘルパーへの情報提供は、利用者を取りまくケアチームの一員としての大切な要素です。実際、質の高いケアプランを実践するには、介護士を含む施設の職員を交えた多職種との連携が鍵となり、多職種それぞれの役割を明確にして、お互いが尊重し協働できることが求められます。
基本的な知識を、共感とともに学ぶ
一言で多職種連携といっても、それぞれの職種が担うべき役割についての理解や認識が不足していると、お互いの業務分担や人間関係にまで溝が生じます。考えてみれば、医療機関での勤務やそこで受ける既存の研修だけでは、介護施設でのケアの進め方や管理方法について知る機会は看護師にはほとんどありません。
まずそこで迫られるのは、「生活の中にある医療」という視点で看護サービスを提供できるようになること。
平たく言えば、視点の転換が必要になります。この転換をうまく図ることができないと、現場で葛藤が生じたり、適応するのに相当苦労するケースが見受けられます。これでは看護師として培ってきたせっかくの知識や経験がうまく活かすことができません。当セミナーのように、同じ立場で現実に直面した介護士や看護師の話を聞き、共鳴することは、「自分だったらできるだろうか?」と考えるきっかけになります。また看護に対する学習意欲の向上にもつながるはずです。
モデルは医療から生活へ
たとえば医療現場の場合、患者の健康管理を行う上で基本的な措置である「塩分制限」があります。入院患者の場合ですと、病院食の提供により自動的に制限されるのが普通です。しかし、同じことを在宅で促すと、「塩分の高いものはダメですよ」と言っても聞き入れてくれないことが少なからずあります。特に高齢者の心情としては、「家ではせめて自分の好きなものを食べさせてほしい」「もう老い先短いのだから好きにさせてくれ」と反発する方もいます。
このようなとき、相手の方の生き方や考え方、感じ方を汲み取って、否定から入らないコミュニケーションを心がけるべき、と野田先生は語ります。「それも美味しそうですね。でも、こちらの方がもっと美味しそうですよ。お体にも良さそうですね」といった接し方です。同様に、食事量や水分摂取量の指導についても、ご本人が本来持っているはずの自立精神や向上精神を引き出し、それを尊重しながら人間関係を構築することが大切、と強調します。このような個人や集団の潜在能力を引き出す力を「エンパワーメント」といいます。野田先生は、高齢者本人のエンパワーメントを上げ、看護師がそれぞれの在宅のシーンで人として臨機応変に総合的に判断することの重要さを教えてくれます。