看護職における最高峰の資格
人口の高齢化が急速に進行しつつある現在の日本において、医療機関や介護ケア施設におけるサービス提供体制のさらなる強化と充実は、まさに喫緊の課題です。より幅広い視点と能力、そして高い意識を持って課題に取り組むことのできるハイレベルな看護師の必要性は今後さらに高まると予想されます。
たとえば病院の看護部長や介護ケア施設の副院長、訪問看護ステーションの所長など、看護師の中でもより高い立場にある役職者にとって、管理者として周りの看護師たちを理解し適切に動かす能力は欠かせません。患者様やご家族、さらには地域住民に対して質の高いサービスを提供できるよう、創造的に組織を改革・発展させる能力がある、と認めた資格が「認定看護管理者」です。公益財団法人日本看護協会が定める看護師のキャリアアップに関わる資格認定制度のうち、「認定看護管理者」は看護職の最高峰に位置する資格です。
認定看護管理者になるには
認定看護管理者の資格は、公益財団法人日本看護協会が毎年実施する認定看護管理者認定審査に合格した者が認定されます。
審査を受けるには、看護師として5年以上の実践経験を持ち、同協会が定める510時間以上の認定看護管理者教育を修めるか、大学院で看護管理に関する単位を取得して修士課程を修了するという条件をクリアする必要があります。
認定看護管理者教育はファーストレベル、セカンドレベル、サードレベルに分かれています。看護部長相当の職位にある者、もしくは副看護部長相当の職位に1年以上就いている者」は、一部の受講を免除される場合があります。
この教育は各都道府県にある看護協会などで行われていますが、サードレベルは開講する都市が限られ、それぞれ定員があります。審査合格後も活動と自己研鑽の実績を積み、5年ごとに資格を更新していきます。
認定看護管理者への道
日本国の看護師免許を有すること
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看護師の免許取得後、実務経験が通算5年以上あること
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- 下記のいずれかの要件を満たすこと。
- 要件1:認定看護管理者教育課程サードレベルを修了している者。
- 要件2:看護系大学院において看護管理を専攻し修士号を取得している者で、修士課程修了後の実務経験が3年以上ある者。
- 要件3:師長以上の職位で管理経験が3年以上ある者で、看護系大学院において看護管理を専攻し修士号を取得している者。
- 要件4:師長以上の職位で管理経験が3年以上ある者で、大学院において管理に関連する学問領域の修士号を取得している者。
認定看護管理者教育課程
ファーストレベル:150時間
セカンドレベル :180時間
サードレベル :180時間
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認定審査(書類審査及び筆記試験)
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認定看護管理者認定証交付・登録
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5年ごとに更新(看護管理実践の実績と自己研鑽の実績等)
日本看護協会(http://nintei.nurse.or.jp/nursing/qualification/cna)
認定看護管理者の役割
認定看護管理者の役割をまとめると、次の4つで示すことができます。
① 保健・医療・福祉の政策等に関する知識や組織管理に必要な理論、経営的な視点等を用いて自身の管理する組織を分析し、サービスの質を向上するための方策を検討して、実行します。
② 看護師が知識と技術を身につけ看護の質を向上できるよう、教育体制を整え人材育成を推進し、質の高いサービスを効率よく提供できるよう、職員の資質を活かした配置を行います。
③ 労働環境の整備やワークライフバランスの推進など、看護師が継続して働きやすい職場環境を整えます。
④ 医療事故を防ぎ、安全な医療・看護を提供するための教育や体制の構築を行い、組織として安全管理を推進します。
看護師の人材育成や、組織全体における医療サービスの向上、といった大きな使命を帯びていることが分かります。
資格取得に必要な学習内容
前述の役割の中で、①にある「政策等に関する知識」「経営的な視点」は、専門看護師や認定看護師の役割には登場しないものです。これまで看護師としてのキャリアの中ではなかなか目を向ける機会の少なかったジャンルなので、苦手という方も多いのではないでしょうか。しかし、病院や介護老人保健施設の副院長や看護部長といったレベルの職からすれば、経営的な視点から厚生労働省や地方自治体の医療方策や動向にも目を向けなければなりません。また、組織を発展させていく能力として、医療報酬など「お金」を扱う経済の分野への理解も求められるでしょう。
認定看護管理者教育の中でも、「保健医療福祉政策論」「保険医療福祉組織論」「医療経済論」「経営管理論」といった分野については、かなりの時間が割かれています。「保健医療福祉政策論」は、日本における社会福祉制度の動向だけでなく、「WHOの活動とヘルスケア政策」や「世界の医療・看護の動向」、「ヘルスケアサービスの国際的動向」など、グローバルな視点での政策論も展開されています。「保健医療福祉組織論」では「マーケティング」も扱います。ビジネスの動きや地域のヘルスケアサービスに関わる社会資源、人的資源を分析するものです。
「経営管理論」では、医療福祉の経済的問題や、財務管理、賃借対照表や損益計算書を使った経営分析などを学びます。これはもう医療というより経営学の勉強と言えるでしょう。このような視点から医療福祉を見つめることも、認定看護管理者には欠かせません。かつては看護部長といった看護職のトップにおける責任範囲は、看護業務に限定されたものと考えられてきました。しかしこれからの看護職のトップは、看護業務だけではなく経営全般に関する責任も求められるのです。

認定看護管理者/認定者数の推移(http://www.nurse.or.jp/up_pdf/20170809132215_f.pdf)
2017年8月現在、全国で3,328人の認定看護管理者が活動しています。医療の高度化や専門化に伴い、認定看護管理者の活躍の場は拡大しています。この資格の取得は簡単ではありませんが、より高度で広い視点を持つためのキャリアアップを考えている看護師の方は、ぜひ目指していきたい重要な資格と言えるでしょう。