抗がん剤を用いて行われるがん化学療法。年々新しい治療薬が加わり、分子標的薬といった新しいカテゴリーの薬も登場し、抗がん剤治療はますます複雑化しています。
どんな副作用がいつ、どのように発現するのかは、使用する薬剤の種類はもちろん、患者の体調や置かれる環境など様々な要因が関係してくるため一概には断定できませんが、その傾向を把握しておくことは大切です。
医師や薬剤師が副作用の症状を理解していることは当然ですが、看護師がその知識を持つことも重要です。むしろ外来・入院にかかわらず患者と接する機会の多い看護師こそ、副作用に対する知識や観察力を持ち、患者の症状を観察し、副作用が現れた場合にも正しく迅速に対処できる能力が求められます。
前回に引き続き、よく現れる副作用のうち、便秘、下痢、口内炎、皮膚障害の4つの症状について見ていきましょう。
副作用の対処法⑤便秘
便秘とは排便回数が減少するなど、排便が順調に行なわれない状態のことをいいます。便が少量となるほか、便に含まれる水分が少なく硬くなり、排便が困難となったり、排便する際にいきみが必要となったりします。
便秘はその原因に応じて、「器質性便秘」と「機能性便秘」に大きく分けられます。
- 器質性便秘・・・腸そのものの病変によって起こる
- 機能性便秘・・・便が作られる過程や排便の仕組みに障害があって起こる
機能的性便秘には「弛緩性便秘」、「痙攣性便秘」、「直腸性便秘」、「医療性便秘」があります。
- 弛緩性便秘・・・大腸の運動能力や筋力の低下によって便を押し出すことができなくなるため起こる
- 痙攣性便秘・・・ストレスなどで自律神経が乱れ、便の通りが悪くなって起こる
- 直腸性便秘・・・直腸にまで便が運ばれているのに、便意が脳に伝わらないために起こる
- 医原性便秘・・・薬の副作用で起こる便秘で、がん患者に見られる便秘はほとんどがこちらに該当する
抗がん剤治療の副作用による便秘は、薬剤投与時には数日から数週間後、時には数ヶ月後から出現することがあります。
便秘が悪化すると、食欲が無くなり栄養状態が悪化するため、様々な問題を引き起こします。また、便を出そうと力を入れていきむことによって血圧が上昇したり、肛門部亀裂や脱肛といった症状を招く恐れがあります。対処が遅れるとこのように別の重篤な症状を引き起こしかねません。
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【便秘予防・改善と看護の留意点】
- 食物繊維の多い食品や乳酸菌などを勧める
- ただし腸閉塞の恐れのある患者には、食物繊維を控えるようにする
- 水分を意識して取るように勧める
一日1000~1500mlが目安 - 1日1回はゆっくりとトイレに座って排便する習慣づけができるよう指導する
- 無理のない範囲で院内を歩くといった運動を勧め、腸の蠕動運動を促すために、おなかのマッサージなどを行う
- 医師や薬剤師の指導のもと、下剤の使用を指導する

便秘の種類と原因 | がんとつきあう/便秘 | がんを学ぶ(https://ganclass.jp/confront/associate/astriction_kind.php”)
※急性便秘についてはがんの副作用との関連性が薄いため本文では割愛しています
副作用の対処法⑥下痢
下痢とは、糞便中の水分が増加し、軟らかい水のような便(水様便)となり反復排出されることをいいます。大腸がんなど消化器系のがん患者に多く見られる副作用です。
抗がん剤投与から24時間以内に発生する「早発性下痢」と、投与数日後から発生する「遅発性下痢」があります。早発性の場合は、抗がん剤によって神経伝達物質のアセチルコリンが働き、腸の動きをコントロールしている副交感神経が興奮し、腸の蠕動運動が活発化した結果です。遅発性の場合は、抗がん剤やその代謝物によって腸粘膜が萎縮し、水分の吸収障害などが引き起こされることによって起こります。
随伴症状として、腹痛、食欲不振、悪心・嘔吐などを招くこともあり、さらに、下痢の状態が続けば、体の中の水分やミネラルが奪われて脱水状態に陥ります。脱水状態が続けば循環・代謝機能が正常に働かなくなり、ときには重篤化する場合もあります。
看護師の役割としては本人に対するヒアリングを行う中で、排便時の便の硬さをチェックすることも必要でしょう。
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【下痢予防と看護の留意点】
- 腹部を温めることで腸蠕動を鎮静させ、腹痛の緩和に繋がる
ホットパックや温タオルなどを使用する - 食事は温かいもので、消化の良いものを勧める
香料の強いものや冷たいもの、炭酸やコーヒーなどは避ける - 抗がん剤にイリノテカンを使用している場合、乳酸菌飲料の摂取は控える
- 排便の頻度が高くなると、肛門周辺に皮膚障害が発生しやすくなるため、感染予防のために肛門周囲の清潔を保つ
- 医師や薬剤師の指導のもと、止痢剤や整腸剤の使用を指導する
ただし、感染症を合併しているような場合は、止痢剤により毒素排泄が遅れることがあるので注意が必要
副作用の対処法⑦口内炎
口内炎とは、口腔粘膜の炎症のことです。抗がん剤を使用後2~14日程度で出現しやすくなっています。
抗がん剤はがん細胞を破壊するものですが、正常な細胞にも影響を与えるため、口腔内の細胞に障害を引き起こすことがあるのです。そのメカニズムは、口腔粘膜細胞を直接破壊、あるいは再生を阻害して起こる場合と、白血球が減少して口腔内の菌が感染して起こる場合があります。
口内炎の症状には、疼痛(痛み)、出血、腫れ、口腔内の乾燥、味覚の変化、食欲低下などがあります。
抗がん剤治療中のがん患者における口内炎としては、抗がん剤自体によるもののほか、ステロイドやワクチン、血液製剤などを使用して起こる場合、放射線治療により起こる場合もあります。さらに、飲酒や喫煙、刺激の強い食べ物を食べた場合、歯科疾患、低栄養、脱水、高齢による唾液分泌の減少や粘膜角質化の低下など、様々な要因が口内炎の引金になります。患者がどんなリスクファクターを抱えているか、日頃から注意して把握する必要があるといえるでしょう。
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【口内炎予防と看護の留意点】
- 歯磨き、うがいなど、口腔内の清潔を保つように指導する
- ヒアリングにより異常がないか確認すると同時に、口内を継続して観察する
- 極端に熱い食べ物や冷たい食べ物、辛いものは避け、軟らかく消化の良い食べ物を勧める
- 強い痛みにより食事が困難な場合は、鎮痛剤の内服を指導する
副作用の対処法⑧皮膚障害
抗がん剤の副作用として現れる皮膚障害は、抗がん剤によって表皮や爪の新陳代謝を行う細胞が障害を起こすことによって発生します。
本来、皮膚は感染や皮膚障害に抗う防御作用を備えています。基底部で分裂により増殖した細胞が角質層に上がって剥がれ落ち、新しい皮膚に生まれ変わるという新陳代謝が順調に行われれば、この作用が正常に機能するのです。
新陳代謝が活発である基底部が抗がん剤によってダメージを受けると、栄養や酸素が十分に補給されなくなるため、細胞分裂が阻害されたり、角質層の水分保持機能が低下します。これによって新陳代謝が正常に行われず、皮膚炎などの障害が生じるのです。
正常な皮膚なら1ヶ月~1ヶ月半の周期で新陳代謝が行われますので、皮膚障害が引き起こされた場合はその周期に沿って症状が現れてきます。
皮膚障害の種類としては、皮膚乾燥、落屑、掻痒感、皮膚の菲薄化、損傷、発疹があります。特に多い皮膚障害は以下のようなものがあります。
- 色素沈着
表皮基底層に含まれる、メラニン色素を生み出す細胞が抗がん剤によって刺激を受け、過剰にメラニンを生み出すことで現れるとされています。皮膚や爪が黒味を帯びたり、斑点が現れることもあります。 - 手足症候群
手のひらや足底に、チクチク、ヒリヒリするような違和感やほてり、知覚過敏、腫れなどの症状が現れます。進行すると亀裂や水ぶくれを生じたりして、手を使った日常的な活動や歩行が困難になるといった重症になる場合もあります。 - 日光過敏症
薬物が紫外線を吸収して炎症を起こす「光毒性皮膚炎」と、薬剤が光抗原に変化して抗体を過剰に生み出す「光アレルギー性皮膚炎」があります。短時間の日光を浴びただけでも湿疹のような症状が現れることがあります。
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【皮膚障害予防の留意点】
- 症状が出る前から軟膏や保湿剤を使用して保湿ケアを行う
- 洗顔では刺激の少ない低刺激性の石けんを使用するよう指導する
- 化粧品を使う場合はアルコールフリー、オイルフリーの敏感肌用を使用するよう指導する
- ひげ剃りは肌に刺激を与えないよう、カミソリではなく電気カミソリを勧める
- 外出時に直射日光を浴びないよう、長袖、帽子でのガードや日傘の使用を勧める