家族看護における看護師の役割② ~救急医療・集中治療の場における家族への看護~

家族看護の定義は、「家族を看護の対象とし、家族が本来有する機能と家族の健康に関するケア機能を高める援助を行うこと」です。家族看護学では、家族に生ずる健康問題やそれに関連した要因への看護援助を行うにあたり、家族看護の理論を活用して実証的な研究を行っています。
その中で、救急医療や集中治療の場では、家族が突然の出来事に激しく混乱し、本来有する「家族のセルフケア」という機能を発揮できない場合があります。突然の事故や発症など、何の予測も準備もできないままその状態を迎えれば、大きなストレスを抱えることでしょう。三本立てでお送りする第二段の今回は、そんな状況の中で看護師は家族に対してどう接していくべきかを考えながら、その役割をご紹介します。

家族の心理状態を理解する

具体的な看護を紹介する前に、まずは救急医療や集中治療の場で出会う家族の特徴、およびその心理状態を理解しておきましょう。

1.出来事に対する予測や準備がない

患者が突然重篤な病気を発症したり、事故によって危機状況に陥った際、家族は何の準備も予測もないままに現実と直面しなければなりません。なんらかの予測があったうえでの出来事に比べ、より深刻な危機状態となりがちです。

2.患者の死が想起される

一般的に救命救急センターや集中治療室といえば、重症の患者が入るというイメージがあります。ですから患者が救命救急センターに搬送されたという連絡を家族が受ければ、「もしや死ぬのではないか」という強い不安にさらされるでしょう。人が感じるストレスの中でも、家族の死というのは最も強いストレスと言われており、突然それが想起されることによって、恐怖を抱くことは避けられません。

3.十分な情報が得られない

患者の急変や負傷の現場に家族が居合わせていなかった場合は特に、家族が得られる情報は限られたものとなります。急いで病院に駆けつけたとしても、検査や処置が終わって医師から詳しい説明を受けるまでの間は、患者に何が起こったのか理解するための材料があまりにも不足しています。こうした情報が得られない状態は、家族の不安や恐怖をいっそう掻き立て、情緒不安定な状態を招きやすいのです。

4.無力さを実感する

患者が生命の維持さえ危ぶまれるような重篤な状況になった場合、家族は「なんとかしてあげたい」と、自分の身を投げ出してでも苦境から救いたいと感じます。しかし現実には、医療関係者に任せるしかなく、自分が患者のためにできることがあまりにも少ないことを実感し、自分の無力さを見せつけられて打ちひしがれるでしょう。こうした悔しさや行き場のない憤りを感じる状態となります。

5.希望と不安が交錯する

患者への強い思いに駆られている家族の唯一の望みは、患者が回復に向かうことです。しかし、生命の危機と隣り合わせとなっている救急患者は、状態が刻一刻と変化し、予後の確かな見通しを述べることは医療関係者でも困難です。家族はこのような状況の中で、限られた面会で垣間見る患者の様子と医療関係者からの説明に一喜一憂し、回復するという希望を抱く一方、もしかしたらダメかもしれないという不安も頭の片隅にあり、気持ちが激しく揺れ動く状態となりがちです。

6.医療関係者への信頼と不信感

重症の救急患者に対して家族は無力さを感じる気持ちが強いぶん、それに対応できる医師など医療関係者をより大きな存在と感じ、信じて従うしか他に道はないという気持ちを抱きます。これは医療者にとって信頼感の源となる反面、期待が大きいだけに家族が医療者の言動に少しでも疑問や不安を感じた場合、強い不信感を生み出すという結果を招くことになります。

7.家族間コミュニケーションの歪み

発症直後の段階では、家族は現実に圧倒されパニックとなったり、何も考えられない状態になりがちです。それを過ぎるとやがて防御的退行の段階に入ると言われています。この段階においても、厳しい現実から自分を守るのが精一杯となり、他の家族の危機状態を察知したり、心情を慮ったり、家族全体を見て判断するという余裕が保てません。
このような状況では、それぞれが相手のニーズをうまく感知できないことから、家族間のコミュニケーションに歪みが生じ、感情的な言葉をぶつけ合うといった危機的状況になる場合も多いのです。
それは特に、患者が家長などリーダーシップを発揮してきた人物だった場合に最も顕著です。従来のリーダー機能が失われたことで、家族全体のストレスが増大することもあります。

家族の課題を明らかにする

重症救急患者をもつ家族がどのような心理状態になっているか理解したら、それを踏まえて家族が達成すべき課題を明らかにしましょう。患者の病状が危機的状態にある家族が成し遂げなければならない課題は、以下の5つが挙げられています。

1.人生、生活を圧倒するような病の体験の中に意味を見出すこと

家族は突然襲ってきた不幸に激しい衝撃を受け、混乱状態に陥るのですが、ただ狼狽するだけではその危機を乗り越えることはできません。家族内外の資源を適切に動員し、これ以上ストレスを累積させることなく対処に向かって歩みださなければなりません。
そのためには、今家族に降りかかっている出来事を、なんとか自分たち家族で処理できるように状況を再定義することです。例えば、面会に訪れる家族が「神様が与えてくれた試練だと思って頑張るしかないです」とか、「あんまり働きすぎだから、休みなさいってことかも」などと語ることがあります。
これらは突然の危機に遭遇したという体験の中に、その家族なりの意味を見出しているサインと見ることができます。

2.病前の家族の同一性を失うことに対する悲嘆

家族の一人が生命の危機に瀕するという出来事は、それまで長い時間をかけて培ってきた家族の生活が変化することを強いられます。例えば、毎日食事を作ってくれた主婦が患者となった場合などは、自宅に帰れば当たり前のように食事が用意された状況が一変します。これは家族の同一性の喪失を意味するのです。
こうした同一性を失うことに対する悲嘆は、苦しみを伴うことではありますが、これ以降家族が変化を受け入れて新たな家族の同一性を獲得していくためのプロセスとして、通らざるをえない道と言えるでしょう。この悲嘆の体験を通して、家族は成長を遂げることになります。

3.過去と未来が繋がっているという感覚を維持する一方で、永続的な変化を受け入れる位相へと変化すること

面会に訪れた家族からは、「事故に遭った日から自分たち家族の何もかもが変わってしまい、事故に遭うほんの少し前の出来事も、遠い日の夢のような気がします」という言葉を聞くことがあります。これは患者の発病や受傷を境に、まるで過去と現在が分断されてしまったかのような感覚となるのです。
家族が現実の困難と対処していくためには、これまで家族が歩んできた歴史の中に現実の出来事として統合していくことが必要です。過去と現在を一連のストーリーの中に位置づけていくのです。これが認知できたときには、未来にも目を向け、今後も訪れるであろう永続的な変化を受け入れる素地が生まれます。

4.短期間の危機を持ち堪える立ち直っていくために家族が協働すること

家族は突然の発症・受傷という危機状況に対して、力を合わせて対処しなければなりません。具体的には、患者の回復に向けて家族が結集することです。また、家族それぞれが危機状況にあることをお互いに理解し、支え合うことが必要です。この状況によって生まれる生活の変化にも対応しなければなりません。そのために、まずは家族が気持ちを共有しあい、最初の危機状況を協力して乗り切っていくことが求められます。

5.将来のゴールに向けて家族の柔軟性を発達させること

患者の死、あるいは後遺症を残したままの退院となった場合、今後の生活が大きく変化することになります。そこで家族それぞれも、将来のなんらかのゴールに向けて大きく変化していくことが求められます。家族がその変化のプロセスを円滑に歩むためには、例えば患者が担っていた家庭内の役割やリーダーシップ機能を代替、補完したりといった柔軟性が求められます。

救急医療や集中治療の場では、家族が突然の出来事に激しく混乱し、本来有する「家族のセルフケア」という機能を発揮できない場合があります。

救急医療・集中治療の場における家族への援助

家族に対する看護のあり方を考えるにあたっては、前述したような心理状態と課題をしっかりと理解し、そのうえで看護者の役割を認識して最善を尽くすことです。どんな心構えで援助を行うべきなのか見ていきましょう。

1.家族と看護者の最初の出会いの場

患者が危機的状況に陥ってしまった家族の不安定な心理状況に対する看護の必要性は高いのですが、実際には患者が救急救命センターや集中治療室に入っている期間は一般的に短いため、看護者はごく短期間のうちに家族との関係性を確立しなければなりません。そのためにも、早期から家族援助の必要性を認識し、駆けつけた家族には患者の様子を伝えるとともに、患者のみならず家族自身に対する助力の意思を伝えます。

2.看護者の言動が与える影響の大きさを自覚する

看護者の基本的な姿勢としては、家族の脅威となる様々な出来事や条件から可能な限り保護するということです。こうした深刻な危機においては、家族は外界の刺激に敏感になっており、ストレスを抱えやすい状態であることを認識してください。医療者の存在を大きく感じ信頼を寄せつつも、その関わり方によっては看護者の言動さえストレスの一因となってしまいます。自分が発する言葉や態度が、家族にどんな影響を与えるか、十分自覚することが必要です。

3.役割を認識し、限界を認めた上で最善を尽くす

救急医療の現場に携わる看護者は、常に緊張状態にあり、心理的な負担も大きいものです。看護者自身が精神的な健康を維持しながら家族援助を進めなければなりません。そのために、看護者が自身の本来の役割がどこにあるのか正しく認識し、現実的に可能な枠の中で最善の努力をしていくことです。
看護者の本来の役割とは、家族に温かな関心を寄せ、傍らに寄り添って安全を保証し、深刻な危機状況に陥ることを防ぐことです。そのために、まず家族にできるだけ声をかけて情報を提供してあげましょう。患者の回復を示す兆候があれば、どんな些細なことでも一緒に喜びます。また、家族にもできるだけリラックスして快適に過ごしてもらえるよう、待合室の温度や湿度、採光に気を配るといった配慮が大切です。これらは決して高度な技能や大きな労力を必要とせず、日常の業務の中でも行えることです。多くの家族が必要とするのは、強力な介入や操作ではなく、常に看護者が自分たちに関心を向けていてくれるという雰囲気です。家族の気持ちに寄り添っていく姿勢こそが重要なのです。

4.家族のニーズに応える

重症救急患者を持つ家族のニーズとしては、以下のようなものが重要になると言われています。
①質問に対し率直な回答を得ること
②患者の容態が悪くなる要因について知ること
③患者の経過、最終的な状態、回復のチャンスについて知らされること
④患者の容態が変化した時には自宅まで連絡をもらうこと
⑤理解しやすい説明を受けること
⑥1日に1回は情報を受け取ること
⑦希望を持つこと
⑧病院職員の患者に対するケアを信頼すること
⑨患者が最高のケアを受けているという保証を繰り返し得ること
⑩何度でも患者と面会すること

この中で、患者に対する最善のケアの提供は、優先度の高いニーズの一つです。これによって家族との間に落ち着いたリラックスした雰囲気や信頼感を生み出すことができるでしょう。看護者はただ一生懸命ケアをするだけでなく、家族に対しても最高のケアを受けていると感じられるように積極的にアプローチすることが必要です。
具体的には、面会の際には前回の面会から現在に至るまでの患者の状態やケアの内容を十分に説明します。時には、面会時に看護者が行う実際のケアを見てもらうことも有効でしょう。また、例えば枕の歪みやシーツの小さな染みも放置せず、細やかな配慮を行っていることを理解してもらいます。

患者の回復への希望を保持したいというニーズに対しては、希望をもって患者の回復へのサポートを継続できるよう働きかけます。それは患者が回復に向かっているときだけでなく、死を免れないことがわかった後でも重要です。そういったときは、ただ絶望するだけでなく、患者が残された日々を安らかに過ごせるようにという希望や、人間としての尊厳を保ちながら生を全うできるという希望が残されていることなどを伝えます。
家族が「せめて○○してあげたい」といった要望を出してきた場合は、その変化を肯定的にフィードバックし、その願いを実現させていくパートナーとして努力する姿勢を見せてあげましょう。

5.面会によって患者と家族の交流を促す

重篤で不安定な状態の患者の場合は特に、家族の面会が療養の大きな支えとなります。しかし、患者の安静や感染予防のために、面会時間や面会できる人数を制限している医療機関は多いです。しかし、面会時間を短時間に制限することは患者の血液動態にマイナスの反応をもたらすことが明らかになっています。看護者は、面会のメリットとデメリットを把握し、家族全体のセルフケア機能を向上させるという視点から判断していきましょう。家族が、面会することで「本人を興奮させてしまうのでは」、「医療者の邪魔になるのでは」という考えで面会を躊躇する場合があります。こういった認識にも配慮しながら、家族が誤解していたり医療者に気兼ねをしていたりする場合はそれを是正し、患者にとって面会がどれほど支えになるかを説明した上で面会を促していきましょう。
面会においては、家族が安心して患者の下に居続けられるようなスペースを確保します。ベッドの脇には家族の座る椅子を用意し、家族が低い視線から患者に語りかけ、患者の手足にも触れられるようにできる環境を整えていきます。

参考図書:『家族看護学 理論と実践』第4版 鈴木和子・渡辺裕子著