男性看護師の就業者数は年々増加が続いており、2006年(38,028人)から2016年(84,193人)の間で2倍以上に増えています。とはいえ、女性を含めた看護師全体の数に占める割合では1割にも満たず、女性看護師とは異なった視点から患者に対してアプローチできる男性看護師は、まだまだ貴重な存在です。(数値出典:平成 28 年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況(厚生労働省))
LALANURSEでは年末特別編として、まもなく学校を卒業する男性看護師の卵たちと、現場で働く男女の先輩看護師との座談会を実施。全2回の特集記事として、2週に分けて公開します。ご参加いただくのは順天堂大学医療看護学部の学生6名と、株式会社トータルライフケアのステーション所長および男性の訪問看護師2名です。

上段左から:順天堂大学医療看護学部学生・大久保さん、坂本さん、金坂さん。下段左から:同・藤井さん、西海さん、柚木さん

左から:トータルライフケア蒲田訪問看護ステーション所長・日野さん、同訪問看護師・梅垣さん
第1回となる今回は、これから看護の現場に踏み出す学生の皆さんから先輩看護師のお二人へ忌憚のない質問をぶつけていただきます。
(第1回/全2回) 第2回はこちら
看護師を目指したきっかけ
— 西海:僕たちは男性として看護師を目指していますが、梅垣さんが看護師を目指したきっかけはどういうことだったんですか?
梅垣:一番のきっかけは、おばあちゃんが民生委員だったことですね。僕は実家が長野で、小学生の頃は学校まで一時間ぐらい歩いて通っていたんですが、おばあちゃんが民生委員の活動で車で巡回しているので、お迎えに来てくれていたんです。それで小さい頃から必然的に民生委員の活動について回ることがあって、医療や介護を必要としている地域の人々に触れる機会が多くありました。
元々は医師も目指していましたが、社会科見学で病院に行かせてもらったとき、看護師は医師よりも患者さんと密に関わって、おばあちゃんの活動にすごく似ているなと気づきました。そのとき、看護師の方が自分のやりたいことに近いのかなと思ったのがきっかけです。
— 坂本:日野さんのきっかけもお聞きしたいです。
日野:私は高校時代にクラブ活動していたとき、同じクラブの子が過呼吸になって、何もできなかった虚しさ、悔しさを覚えました。それで何か困ってる人がいたら助けられるようになりたいと思って、高校3年生の進路を考える頃に、看護師を目指しました。

街で急病人が倒れた現場に居合わせ、救護活動を行った経験もある日野さん
— 大久保:看護師になった当初は病院に勤務されていたと思うんですが、訪問看護で働こうと思ったきっかけはどんなことがあったんでしょうか。
梅垣:さっきお話しした経緯からも、僕は看護師を目指した時点でいずれは在宅に、と決めていました。なので勤務する病院も、在宅療養を目指す人たちが入院してくる病院を選んだんです。
日野:私は病棟勤務を4年ほど続けましたが、患者さんらしさや個別性を重んじると言いながら病院のルールを守ってもらうところにすごく矛盾を感じていました。病院を退職してから施設や在宅系の派遣で働くうちに訪問看護へたどり着いて、『私がやりたかったのはこれだな』と感じて、気づけばそれから7年経ちました。

病棟看護と在宅看護の違いについて
— 柚木:僕も在宅看護の実習は受けたんですが、実際に働いたらどんな感じなのか。感想や雰囲気など、在宅で働いてみて率直に感じたことを教えてください。
梅垣:柚木さんは逆に、実習でどんな感じを受けました?
柚木:病棟よりも、すごく利用者さんとその家族の側に立って、寄り添っているなと……。
梅垣:その通りだと思います。病棟だと看護師1名に対して患者さんを最大7名受け持ちますが、勤務時間内にやらなきゃいけない色々なことがあって、慣れてくると『いかに早く捌くか』という感じになってきてしまう。在宅だと利用者さんのお家に行っている時間は、その人と自分だけ。30分から1時間の1対1という環境が、病棟とは一番違うと思います。
病院は患者さんが来るところで、訪問看護は私たちが行くところなんです。友達や親戚の家に遊びに行ってもちょっと緊張するじゃないですか。その家の生活感があるので、そこに自分がいかに溶け込んでいくかということが求められますね。
日野:たとえば塩分制限しなきゃいけないという場合に、病院ではもちろんきっちり制限してバイタルを安定させてから退院、という感じになるけど、在宅になるとそんなことはないんですよね。「こんなに大好きな塩辛を食べられないなんて、どうやって生きていけばいいの」という人に対して「食べないで」と言えるかどうか。『余生を好きなものだけ食べて生きたい』という人と、『一日でも長く生きたい』という人では、まったく関わり方が変わります。
病院が言う個別性とは比にならないくらい、在宅看護では『その人がどういう想いでいるのか』によってやること・なすこと・話すこと全てが変わってくるので、その想いを聞き取るためのコミュニケーション力は相当大事になってきますね。

日野:ちなみに、在宅の実習は何日ぐらいでしたか?
柚木:2週間ぐらいです。
梅垣:僕のときは3日間の見学実習だけでした。
日野:私も見学だけ。時代は変わったわ……(笑)。
— 金坂:僕が訪問看護の実習へ行ったとき、介助者が『利用者さんの娘さんの友人』だったんです。そういった家族以外の方が面倒を見ているようなケースで生まれる問題はありますか。
梅垣:たとえば家政婦さんを雇っていたり、僕が以前行っていたところでは、社会的地位の高い方だったのでお弟子さんが周りを介護していて、それとは別に奥さんもいる、という環境もありましたね。在宅には色々な登場人物が出てくるので、本人ではないところでやらなきゃいけないことも出てきたりします。喧嘩の仲裁をしたりとか……(笑)。
日野:家族どうこうよりも、その利用者さんにとって本当にその人がキーパーソンになるのか、ということの見極めが大事かなと思います。雇われている家政婦さんでも、本当のキーパーソンならその人にも説明するし、そうでないなら大事なことは話さないし。色々な人が出てきても、誰に何を話すか決めておくことですね。
— 藤井:僕も将来、在宅看護をやりたいと思っています。臨床でどれだけ経験したらいいのかと考えていて、アドバイスをいただけると嬉しいです。
日野:訪問看護の利用者には色々な病気の人たちがいるし、一人で行かなきゃいけないし、色々な判断をしなきゃいけない。だから消化器科や呼吸器科、脳神経外科や救急外来とか、そういった人間の生命をまさに実感できるようなところで、若いうちしかできない大変な経験をしておくといいんじゃないかと思います。私はそういう道を歩んできたので……。
梅垣:僕は病棟で5年勤めて、一通りのことができるようになったかなと思って訪問看護に移ったんですが、やっぱり病棟と在宅ではやっている内容が全然違うんですよね。逆に、訪問看護に来てからの方が色々な経験も勉強もしていると思います。日野さんと違って、僕はずっと脳外科が専門だったので。
一通りの看護ケア……吸引とか、在宅でも絶対に必要な処置があります。大学の実習でもたくさんやってきていると思うけれど、病院では色々な人のケースに合わせて色々なケアを応用させていくことがあるので、そういったことをきちんと経験してくれば、僕は『何年』というふうに決める必要はないと思います。

— 金坂:今までの話を聴いていると、病院から訪問看護に変わったことで自分自身の環境に変化があったと思うのですが。病棟と在宅の看護の違いで、葛藤や困惑はありましたか。
梅垣:患者さんも病院にいるうちは病院のルールに従うのが当たり前だと思って入院してきたりするので、こちらもそれが当然だと思って食事制限や服薬管理をしていると、看護師の立場が上に……いま振り返ると、自分にそのつもりがなくても患者さんからはそう思われていただろうなと。でも訪問に行くと、さっき言っていたようにその人の生活があるので、病院で指導してきたやり方が全く通用しないんですよね。そこはやっぱり、最初すごく戸惑いました。
日野:私は病院時代にすごく葛藤してましたね。患者さんに「お家でどんな様子ですか」と聞いても結局その様子を私は実際に見ていないし、好きなものをどんな量食べるのかもわからないし、「この人にこんなに指導してるけど、これで合ってるのか?」と。逆に訪問看護に来てからは、あんな指導じゃ全然ダメだったと気づいたりして葛藤がなくなったというか、スッキリしましたね。
— 坂本:お二人の職場であるトータルライフケアの看護の特色を教えてください。
日野:弊社はリハ職に強いイメージもあるんですけど、24時間体制もやるようになってきてからは、在宅で看取りをしていくという意味でも看護師がすごく重要になってきて、今後もそこに力を入れることになっています。
利用者さんはすごく色々な人がいます。リハビリでは難病の人たちもいるし、看護ではがん末期の人もいるし、小児も精神もいます。そういう意味では色々なケースにしっかり対応できる会社ですね。
梅垣:訪問看護は時代的にも色々な場所にいっぱいできていて、利用者さんの取り合いみたいな部分があるので、今後の訪問看護ステーションはただ看護をしているだけでは生き残っていけないと僕も思っています。トータルライフケアではメディカルフットケアをやっていたり、勉強会を開催していたり、看護以外のところで特色を前面に出してるので、他所との差別化を図っていることをすごく感じます。僕がこの会社を選んだ理由には、そういう点もあります。

看護師として働くことの不安
— 藤井:僕たちはこれから看護師になるんですが、病棟や訪問の看護師になって最初にぶつかる壁があれば教えてほしいです。
日野:最初は業務でミスしないことだけが精一杯。ある程度業務を覚えてからは、やらなきゃいけないことやタイミングの悪さがあって、ちゃんと話をしたい患者さんやその家族と話せない壁というか、「なんでこの人と関われないんだろう」という疑問にぶつかりましたね。本当に会話しなきゃいけない人こそ、ナースコールを鳴らさなかったりするので。
梅垣:訪問看護に来てからは、やっぱり今までやってきたことが通用しないという壁にぶつかったかなと思います。今も毎日壁にぶつかってる気がしますけどね(笑)。
— 大久保:僕はまだ30年後の自分のビジョンが見えなくて。60歳になっても男性看護師として現場で働いている人はいないと思っているので、男性はどういうキャリアアップをしていくのか、梅垣さんにお聞きしたいです。
梅垣:病棟でも訪問でも、女性の患者さんを男性の看護師が看護するのはやっぱり抵抗があるし、担当を持たせてもらえなかったりもして、どうしても性の違いはあります。もし自分が女性だとして、入院したときに4,50歳の男性看護師が出てきたら、ちょっと……とは、自分も働きながら思います。
だから現場でずっと働くことには限界があると思って、僕は自分で訪問看護を立ち上げるのが目標ですね。もともと、地元でやりたいという気持ちがあるので。管理者になることはそのためのステップかなと思います。

入職時から一貫した目標を掲げている梅垣さん。会社からも今後のキャリアが期待されている
— 西海:日野さんに、キャリアを重ねていって管理職の立場になったときに生まれた考え方や苦悩を教えていただきたいです。
日野:訪問するのが一人でも、やっぱり看護はチームなので、事務所のみんなで利用者さんのことを話し合って、一緒に奮起したり悲しんだりできることが第一だと私は思っています。それをリーダーの私ばかりが引っ張っていてもダメで、スタッフみんなでやっていく達成感を持ってほしいと思っているから、後ろから支えていくことを日々頑張っています。看護師も経験年数だったり個人差があるので、まとめて一つにするのはなかなか難しいんだなと思いながらやっていますね。
— 柚木:新人看護師としての立ち振舞いについて、アドバイスをいただけますか。
梅垣:女性には素直に従った方がいい(笑)。男性看護師は病棟で一人か二人ぐらいになるので、力仕事とか、そういうことを率先してやっていくといいんじゃないかな。何年か経ってプリセプターとして指導する側になっていくと、女性の中での男性の立ち位置が出てくると思います。
あとはもう、男女で変わらない。患者さんと真摯に接して、一つひとつの看護業務に動いていけばいいと思います。
日野:新人にあまり男女差はないので、看護という仕事をやりにきた意気込みややる気を見せればいいと思います。素直にいろいろ質問して、わからないならわからない、勝手に動かないというところですね。
梅垣:わからないことをわからないという勇気は大事だと思います。最初じゃないと言えない、2、3年経つと今さら聞けないことが出てくる。1年目だからこそなんでも聞けるということは、フルに使えばいいと思います。
