東京都目黒区にある『東邦大学医療センター大橋病院』は、目黒区・世田谷区・渋谷区を医療圏とする都市型&地域密着型の病院です。日々進歩する先進医療サービスの提供だけでなく、家庭的で温かみのある病院として地域住民に信頼される貴重な存在でもあります。

東邦大学医療センター大橋病院(東京都目黒区)
同病院では現在、新しい棟を建築中で、2018年6月に移転を予定(6/20オープン予定)しています。従来と比較して、病床数は319床とコンパクトになる一方、医療の質の面をさらに重視しており、高度急性期病院として最新の医療機器なども取り揃え、高度な医療の実践が期待されています。また地域包括ケアを推進するため地域の病院や施設、訪問看護ステーションなどと連携するための役割も担っていく予定です。
LALANURSEでは今回、東邦大学医療センター大橋病院の看護師長、堀孔美恵さんへのインタビューを実施。看護師長としての役割や、理想とする看護のあり方などについてお話を伺いました。全2回の特集記事として、2週に分けて公開します。
(第1回/全2回)
他職種とも連携・協力する能力が求められる
-看護師長の役割、業務内容はどういったことでしょうか?
「看護師長というと、看護師のまとめ役というイメージがあると思います。もちろんそれも大切な役割ですが、それだけではありません。
当病院には、2017年4月に『患者サポートセンター』が新設されました。ここでは看護師だけではなく、ソーシャルワーカー(社会福祉士)、医事課の職員、病診連携の事務の方、さらにはセンター長である医師、薬剤師、管理栄養士などがひとつのフロアに集約されていて、各自がつねに連携して仕事をしていきます。看護師の話を聞きながら、これからの方針をまとめていくことも必要ですが、看護師以外の職種の方々と連携していくことも重要です。彼らの協力なくしてはこのセンターは機能しませんので、それら全員の意思を調整していくことが求められます。それが今の私の課題です。
今までは看護師という立場でしか物事を見たり判断したりすることができなかったのですが、事務には事務の、ソーシャルワーカーにはソーシャルワーカーの、それぞれの職種が大切にしていることも考慮しなければなりません。自分の常識や枠組みを取り払って、いろんな方の話を聞きながら先に進んでいかなければならないというのが、この1年弱の活動の中で体験しています」
-他職種の方々との調整は、具体的にはどんな作業になりますか?
「やはり話し合いが必要です。まだ生まれたばかりのセンターなので、やっていくといろいろな課題や不具合に直面します。そこでお互いの意見を聞いて、引き出しながら決めていかなければなりません」

東邦大学医療センター大橋病院 看護師長/堀孔美恵さん
ベッドコントロールと退院支援も重要な役割
-患者サポートセンターにおける看護師の役割としては、従来とどう異なるのでしょう?
「ひとつはベッドコントロールが加わりました。これまでは事務職員がやっていたのですが、これを看護師が行っていきます。看護師が患者様を入院前から把握し、その病状などを見ながら、もっともふさわしい病棟はどこか、といった判断を行います。逆に看護体制を見ながら、『ここなら任せられる』などの判断をしながらベッドコントロールを行うこともあります。
もうひとつは退院支援。患者様が地域に復帰するために、どうしていけばいいのかを考える重要な役割です。早期退院ができるよう、看護師が入院予約をする患者様の面談を行ってあらかじめ退院後のリスクを見つけ出したりと、より患者様に寄り添ってサポートできる体制を取っています。これらは入院支援部門の看護師や、退院支援部門の看護師やMSWばかりでなく、各部署の看護師の協力が必要です。
こうした2つの重要な役割を持つセンターですので、どうしても日々問題や課題にぶち当たるという感じがありますね。私はそういう課題を様々な職種のスタッフたちと一緒に解決していかなければなりません」
言葉を発信し、スタッフの反応を冷静に受け止める
-看護師長として組織をマネジメントしていくうえで重要なことや、ご自身で意識して心がけていることがあったら教えてください。
「まずは、自分が何を伝えたいのかというビジョンを明らかにしなければなりません。自分の言葉として語れるように努力することです。
次に、その言葉を発信したことによって、スタッフそれぞれがいろんな反応を起こします。これまではその反応に対して感情的になってしまうこともありましたが、看護師長としては冷静に、客観的に受け止めなければなりません。受け止めて自分の中で理解し、その理解したことに関しても、自分の言葉でそれぞれのスタッフにフィードバックしながら、いろいろな物事を解決していきます。そういうことができる場を作ること、雰囲気を作ることが、マネジメントしていくうえで重要です。
とはいえ私は結構おっちょこちょいなところがあるので、逆に頼りになるスタッフたちからサポートされているところもあったりする現状ですけどね」
自分だけで抱えず、スタッフに発散することも有意義
-特に苦労している点があるとしたら、どのようなところでしょうか?
「センターでは看護師以外の職種の方々と連携が大切と言いました。その連携の中で、それぞれの役職が大切にしている領域まで、どうしても踏み込まなければならないことがあります。今までそれぞれの職場で大切にしていたこと、培ってきた文化や価値というのを、一緒になることによって、それを犯してしまうかもしれないリスクがあります。それでも業務上、言わなければならないこともあります。『プライドを潰さない言い方はないだろうか』、『伝えるために説得力を持たなければ』など考えながらやっていくことは難しいですね。それは自分の中ではまだまだ未熟なところで、もっと鍛えていかなければいけないなと思っています」
-そんな問題はどうやって解決していますか?
「どうしても最初はぶつかっていました。センターが始まる前は、自分の中でも覚悟が足りなかったようで、大いに悩みました。でもやっぱり腹をくくるしかないでしょう。『看護師長になったからにはしょうがない、この役割、ちょっとだけ楽しんでみるかな』と。正直、そう思わなければやっていけない重責ではありますね」
-腹をくくって、楽しんでやるためには、具体的にどうすればいいですか?
「例えば自分が困っていることがあったら自分だけで抱えず、あえて周りの人に言ってみるとか。『こんなところで困っちゃってるんだけど、どうしようかな』なんて軽い感じで。自分とは違う立場の方々からすると、意外に『それってこうすればいいんじゃないですか』などと返ってくることがあります。困っていることはなるべく自分で抱えずに、スタッフにも発散しようと思っています。看護師たちも年は若いながら大人な人たちなので、そういうことを受け止めてくれますから」

『看護師長になったからにはしょうがない、この役割、ちょっとだけ楽しんでみるかな』と腹をくくったと語る掘看護師長。
患者様からの感謝の言葉と、スタッフの成長する姿
-仕事にやりがいを感じるときというのは、どういうときでしょうか?
「患者様と接するカウンター業務に付くと、ほんの少しの時間ではありますが、初めて来院された患者様が『心配が晴れました』とか、『ありがとうございます』と感謝されることがあります。それはやはり第一にうれしいです。
次に、看護師らスタッフが育っていくこと。たとえば同センターの新設時、体制が大きく変わり、初めて入院前面談をする看護師や、退院支援職員として病棟スタッフではない立場で病棟に配属される、といった状態が起きました。自分の知らない環境に配属されるのは、スタッフにとってはちょっとした『恐怖』だったと思います。平静を装って業務をこなしながらも不安を感じていたり、同じ看護職種同士でも知らない病棟の看護師とコミュニケーションをとることに躊躇したり。しかし今では彼女たちも経験を積んで、コミュニケーションを図りカンファレンスしながら解決してくれています。そんなスタッフたちの成長を見るのがすごく楽しく、やりがいを感じます」