私たちが未来に向けた指針を示したり、行動を決定づけたりする際、そこには必ず「情報」が必要です。様々な情報を収集し、それを分析・処理することで、様々な問題に対処できるようになります。特に今世紀に入ってからは情報の量は増加し、情報を適切に扱うことがますます重視されるようになってきました。
それは病院や診療所などでも同様です。医療機関では、患者様の様々な診療情報を扱っています。これら人の健康に関する情報を、国際統計分類等に基づいて収集・管理し、分析して提供する、そんな専門職種が「診療情報管理士」です。
診療情報管理士になるには
診療情報管理士は、諸外国では「Health Information Manager(HIM)」と呼ばれ、多くの国々で育成が進んでいます。日本においては、充実した診療情報管理室を備えて活用している病院はまだそれほど多くはないのが現状ですが、近年の医療情報化時代に伴い、診療情報管理士による精度の高いカルテ管理や、それに基づくデータの収集・分析が、病院の経営管理や医学研究に大きく貢献しています。日本では一般社団法人日本病院会が資格認定を行っており、認定者総数は33,306名(平成29年5月現在)となっています。その多くが全国各地の医療機関で活躍されています。
診療情報管理士は、日本病院会の通信教育を受けるか、同会が認定した専門学校・大学で統一されたカリキュラムによって養成されます。現在すでに病院・診療所などの医療機関に就業している人は、通信教育を受講する方法も選べます。通信教育の受講資格は、原則として短大卒または専門学校卒以上ですが、現在病院に勤務にしている人は、高卒でも可としています。

日本病院会:地域別診療情報管理士認定者総数(http://www.jha-e.com/top/abouts/license)
資格取得のためのカリキュラム
カリキュラムでは、基礎医学をはじめ、診療情報管理士の業務や国際疾病分類などの専門分野を2年間かけて学びます。基礎課程と専門課程の各1年ずつ、次のような科目が設定されています。
- ① 医療概論
- ② 人体構造・機能論
- ③ 臨床医学総論(外傷学、先天異常等含む)
- ④ 臨床医学各論Ⅰ(感染症および寄生虫症)
- ⑤ 臨床医学各論Ⅱ(新生物)
- ⑥ 臨床医学各論Ⅲ(血液・代謝・内分泌等)
- ⑦ 臨床医学各論Ⅳ(精神・脳神経・感覚器系等)
- ⑧ 臨床医学各論Ⅴ(循環器・呼吸器系)
- ⑨ 臨床医学各論Ⅵ(消化器・泌尿器系)
- ⑩ 臨床医学各論Ⅶ(周産期系)
- ⑪ 臨床医学各論Ⅷ(皮膚・筋骨格系等)
- ⑫ 医学・医療用語
◆1年次基礎課程/12科目
- ① 医療管理総論
- ② 医療管理各論Ⅰ(病院管理)
- ③ 医療管理各論Ⅱ(医療保険・介護保険制度)
- ④ 医療管理各論Ⅲ(医療安全・医療の質管理)
- ⑤ 保健医療情報学
- ⑥ 医療統計Ⅰ(統計理論)
- ⑦ 医療統計Ⅱ(病院統計・疾病統計)
- ⑧ 診療情報管理Ⅰ(法令・諸規則)
- ⑨ 診療情報管理Ⅱ(診療情報管理士の実務)
- ⑩ 診療情報管理Ⅲ(DPC・医師事務作業補助者・がん登録の実務)
- ⑪ 国際統計分類Ⅰ
- ⑫ 国際統計分類Ⅱ
◆2年次専門課程/12科目
ただし、次の資格を既に持っている人は、1年目の基礎課程が免除されるため1年間のカリキュラムとなります。
【基礎課程および認定試験基礎分野が免除される資格】
医師、歯科医師、看護師(保健師、助産師)、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、歯科衛生士、歯科技工士、臨床工学技士、義肢装具士、救急救命士、あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師
通信教育の全課程を修了した後には、毎年2月に実施される「診療情報管理士認定試験」を受験して、合格する必要があります。

病院の経営管理や医学研究において、診療情報管理士のニーズはますます高まっています。
今後ますます活躍の場は広がる
前述の通り診療情報管理士は、医療の安全管理や病院の経営管理に寄与する高い専門性とスキルを必要とする職種です。診療情報管理士が行う医療機関のデータ管理と活用は、医療の質の客観評価を可能とするだけでなく、厚労省が策定する医療政策をより適切に構築する役割を果たすことにもなります。例えば、2000年4月の診療報酬改定では「診療録管理体制加算」が導入されており、診療情報管理士による病院機能評価などへの関与が求められています。さらには、診療報酬支払制度(DPC/PDPS:診断群分類別包括支払制度)、がん登録推進法、医療事故調査制度など、診療情報管理士が関係する重要な制度も多くあります。
診療情報管理士の資格は、通信教育を修了し試験に合格すれば取得できますが、実際にこの仕事に従事する方々の多くは「診療情報管理の仕事は幅広く、奥深い(※1)」との感想を抱いています。資格の取得をまずは業務の第一歩と捉え、チーム医療の一翼を担いながら、さらに専門性の高く柔軟な診療情報管理士として成長を目指すマインドが求められると言えます。
※1 一般社団法人日本病院会WebSite/「修了生の声」より(http://www.jha-e.com/top/experiences)
診療情報管理士指導者へのレベルアップも
日本において今後、国民の健康に関する情報はさらに増大し、その管理・活用も拡大していきます。そこで、日本診療情報管理学会では平成17年度から、診療情報管理士を対象に、さらにレベルアップした人材として「診療情報管理士指導者」の認定を行っています。
この審査を受けるには「診療情報管理士」資格取得後、診療情報管理業務またはその関連業務を5年以上経過していることなど、いくつかの要件をすべて満たす必要があり、決して簡単に認定されるものではありません。しかしこの認定を受けた者は、診療情報管理教育の指導者や診療情報管理業務の責任者としての活躍を期待できる人材として認められたことになります。
より高次のレベルで診療情報管理に関わっていく意志がある人は、この高い目標を掲げて、キャリアアップを図ってみてはいかがでしょうか。