やりがいを求めて目指した看護の仕事。現場では「体力的に辛い」「精神的にもきつい」「休みがとれない」「人間関係に悩む」などといった切実な声が上がっていることも、まぎれもない事実です。どんな職業でも個別の勤務条件と実態を天秤にかけるものですが、近年では看護職員の離職が注目され、職場改革が急務とされています。
今回は「看護師の退職理由」について考察します。
10人に1人が辞めている、ほぼ横ばいの常勤離職率
看護師は教師や保育士と並んで人気のある仕事の一つです。人の役に立つという面で社会性が高く、他の職種に比べて雇用が安定していて、一般的な事務職などより給与も高めであるというのがその理由といえるでしょう。厚生労働省の統計によると、看護師の総数は1989(平成元)年にはおよそ40万人でしたが、2012(平成24)年には106万人を超えるまで増えています。その一方で、2010(平成22)年には新卒看護師の離職率が10%を超えて問題になるなど、離職率の高い職業であるという側面も持ち合わせています。
直近の情報に目を移すと、日本看護協会による2016年度の「病院看護実態調査」では、看護師の離職率は常勤で10.9%となっています。今でこそ新卒の離職率がかつてより落ち着きつつあるものの、常勤看護師の10人に1人が辞めているという状況は、例年ほぼ横ばいです。厚生労働省は、離職する看護師の数を年間約16万人と推定しています。こうしてあらためて数字にしてみると、離職率の多さに驚くと同時になぜこんなにも仲間が辞めてしまうのか、心当たりがある方も多いのではないでしょうか。

看護職員の現状と推移 – 厚生労働省
(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000072895.pdf)

離職率は常勤 10.9%、新卒 7.8%で横ばい – 日本看護協会
(http://www.nurse.or.jp/up_pdf/20170404155837_f.pdf)
どんな理由で辞めたくなりますか?
2014(平成26)年に発表された厚生労働省の統計によると、退職理由のトップは「出産・育児(約22%)」次いで「結婚(約18%)」となっています。結婚・出産に伴うライフスタイルの変化は、働く女性にとってはまだまだ難問です。特に看護師の場合、夜勤やシフト制、勤務時間の不規則さなどから、職場復帰に及び腰になる人も少なくありません。一方、本人の健康問題や家族の介護問題、通勤困難や他施設への興味など、それぞれの生活環境で致し方ない事由は、他の職業でもほぼ変わらないとみられます。
また、勤務実態を反映する離職理由として、「人間関係がよくない」「超過勤務が多い」「休暇がとれない」「夜勤が負担」「医療事故への不安や責任の重さ」「給与に不満」といった項目がそれぞれ10%近くにのぼっています。なかでも特に多いのが「人間関係」。そして、理由が明らかにされていない「その他(20%)」も気になるところです。
たとえば、プリセプターからの過度な指導、師長のえこひいき、同僚からの嫌がらせ、医師からの不当な指示、職場での無視や差別など、様々な理由から働きづらくなる状況になったとしても、その実態はあまり語られることはありません。

看護職員就業状況等実態調査結果 資料2
(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf)
ハードな仕事、復帰したくても思いとどまる現状…
特に病棟に勤務する看護師の場合、日々の仕事はハードです。夜勤に残業、土日出勤のシフトや、時によっては超過勤務のある場合も…。また、院内での同僚や医師との人間関係、患者さんとのコミュニケーションの問題に悩まされる場合も多いと聞きます。肉体的な疲労に加え、精神的な負担が重なれば辞職を考えざるを得ない状況も頷けます。特に命に関わる仕事であることもあり、業務に対する価値観の違いで考え方が衝突しやすく、人間関係に影響しやすいとも考えられます。新人が先輩を必要以上に厳しいと感じたり、キャリアのある人でも同僚と意見が合わないと、心に抱えた理不尽を解消できずストレスをため続けるケースも見受けられます。⼈の命を預かる過酷な業務内容と照らし合わせれば、収入が低いという不満もあるでしょう。
他にも多くの要因から、せっかく資格を取得しても働いていない所謂潜在看護師は全国に約70万人もいるとみられています。勤務形態が子育てに向かない、一度長く現場を離れてしまうと不安で戻れない…など復帰が容易でない要因も垣間見られます。
その結果、毎年看護師免許を取る⼈は増えているのに、現場は慢性的な⼈⼿不⾜で、看護師の負担増に繋がりかねない危険を孕んでいます。
大切なのは、人間関係が良好であること
では、どんな職場なら長続きするのでしょうか。看護師という素晴らしい仕事を続けるなら、⼀⼈で悩みを抱え込むことを避け、チームや同僚と円滑にコミュニケーションを図ることが大切です。職場で感じていることを気軽に話し合える環境があれば、共感者は意外と多いものです。それが耐え切れないストレスになる前に、客観的な事実を述べ合い、お互いの思いを冷静に伝え合うことが良好な⼈間関係の基礎となります。
また、上司との関係も大きな要素です。業務上辛いことがあっても、理解ある上司がいてくれるだけで救われることも多いと言われます。
主な退職理由として「出産・育児」「結婚」に次いで多いのが「人間関係がよくない」です。円滑な人間関係を構築するためには、自ら積極的にコミュニケーションを取ることも大切です。不安を抱える復職に際し、共感を持って受け入れることのできる職場は、円滑な人間関係が形成されていると言えるでしょう。
医療技術が進歩し、医師、看護師だけでなく、多職種との連携が益々求められる中、やはり基本は「人間関係」と言うところでしょうか。
まとめ
団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて、看護師、准看護師のほか、保健師と助産師を合わせた看護職員の確保は、どの医療機関においても大きな課題です。その就業者数は2013(平成25)年末で約157万人。2025年までには、まだ50万人ほど不足との試算に基づき、厚生労働省は「看護職員確保対策」に乗り出しています。今後、必要とされる看護職員をしっかりと雇用するために、2014(平成26)年には厚生労働省から「 医療介護総合確保推進法」が公布されました。厳しい仕事内容で悩みがちだった看護師の世界にも、これからは復職⽀援や離職防⽌・定着促進の動きが加速されるでしょう。
今後、⽇本社会が迎える超⾼齢社会において、保健医療を担う看護師の皆さんへの期待は高まる一方です。国⺠⼀⼈ひとりに良質で適切な医療を提供するためには、看護師⼀⼈ひとりの働き⽅を社会全体で考え、改善していくことが必要だと言えます。そして私たちは一人でも多くの看護師さんがやりがいを持ち、輝きながら働ける毎日を応援していきます。