全国34か所にある労災病院グループの一つである『東京労災病院』は、羽田空港もほど近い東京都大田区に立地し、病床数400床を擁する急性期医療の重要拠点です。
地域医療支援病院の承認を得て、地域医療の中核を担う病院として患者の入退院支援に力を入れています。また災害発生時は地域の救護拠点として活動する東京都災害拠点病院の指定も受けており、地域住民の健康の砦となる救急医療を支える存在です。
LALANURSEでは、東京労災病院の関係者の方々へのインタビューを実施。全2回の特集記事として、2週に分けて公開します。
第1回となる今回は、東京労災病院に勤務する看護師の遠山さんにお話を伺います。
(第1回/全2回) 第2回はこちら
母の姿がきっかけに
— 看護の道を志したきっかけを教えてください。
「母が看護師をしており、看護師という存在が自分にとってすごく身近な職業だったので、そのことがきっかけになりました。子供ながらに仕事と家事を両立しながら明るく暮らす母に憧れて、自分もそうなっていくのだと思っていました」
— 看護師になることに迷いはありませんでしたか?
「保育士など他の仕事もいいなと思ったことはありますが……やっぱり自分の母が看護師だったことで、自分が病気したときなどに安心できた記憶があって。将来自分も子供を持つとしたら、安心して子供の面倒を見ることができたらいいなと思って、看護師を目指すことに決めました」
中堅看護師としての意識
— 看護師としての現在までのご経歴を教えてください。
「東京労災病院で初めて看護師として働き始めました。新人の頃からずっと同じ循環器科・神経内科の混合病棟で働いており、現在7年目です」
— 働いてきた中でご自身の心境や職場環境の変化はありましたか?
「新人看護師の頃は多くの先輩方に指導していただいて、自分の成長を目指して勉強や業務を精一杯やっていればよかったんですが、現在はほとんどのスタッフが後輩になってしまいました。今は中堅看護師として自己の成長だけではなく、チームや病棟全体の成長を目指して後輩の指導にあたるようになりました」
— 中堅看護師として後輩に指導する上で意識していることはありますか?
「医師との連携がすごく大事だと思っているので、後輩たちにも意見があれば積極的に医師に話しかけてもらうようにしています。話せる場で医師と語り合うことが、患者さんのためになると思います」
— ご自身は、医師に話しかけるのが大変ではありませんでしたか?
「そうですね。やっぱり経験年数が少ない頃は知識がなかったので、医師の言葉の意味がわからなかったり怒られたりしたらどうしよう、とか。不安なときは先輩に相談して、言うことをまとめてから話すようにしていました。今は7年もいるので、信頼関係が築けているかなと」

長く勤めることで、科のプロフェッショナルとしてリーダーシップを期待されている遠山さん
看護師としての喜びと悩み
— 看護師の仕事でやりがいを感じることを教えてください。
「患者さんとの関わりの中では、退院準備・退院前カンファレンスでのケアマネジャーやご家族との関わりにより、自宅退院を希望している患者さんが自宅に、そして地域に戻ることができたとき、また、急性期の患者さんが回復期へ移行したときなどは、病棟の看護師としては、やりがいを感じます。
スタッフとの関わりの中では、後輩指導の後に「教えてもらったようにやったら上手くいきました」と声をかけられることが、やりがいにつながります。
業務上では、新しい仕組みやルールを提案し、それが業務改善につながったときです。
このように、自分の経験を言葉や行動で伝えたことによって後輩が成長したり、病棟としての看護の質の向上につながったと感じる時にやりがいを感じます。
また、後輩たちの素直さや先輩方のアドバイスで日々支えられていることに感謝しています」
— 看護師として勤める過程で感じた苦悩や、それを乗り越えた方法を教えてください。
「心不全の患者さんと関わる機会がすごく多いんですが、終末期の関わり方は今でも悩むことの一つで、これからも考え続けていくことなんだろうと思っています。
勤務して3年ほど経った頃、「胸が苦しい」と言って夜を過ごし、早朝にお亡くなりになった患者さんと関わったとき、自分の無力さにすごく落ち込んだことを覚えています。最期の瞬間が安楽でなければ、苦痛を感じた表情のまま人生を終えることになるんだ――と、そのとき改めて理解し、看護師は患者の最期に立ち会う責任と覚悟をもつ必要がある職業であることを、強く強く感じました。そのときは、看護師長やスタッフと語り合う機会を設けてもらい、気持ちの整理をしました。
その後、医師とも円滑に連携できるよう担当医別の患者カンファレンスを定期的に行うシステムを作り、方針の確認や患者さんの予後、終末期の迎え方と言ったことを話し合える場としました。
繰り返し入院する患者さんや徐々に衰弱していく患者さんの姿を見るのはつらいですが、できる限り苦痛を取り除けるように、医療チームの一員として、患者さんの代弁者として、尽力することが私の務めだと思っています」

カンファレンスの仕組みは遠山さんの出来事が契機となり、看護部全体として行われるようになった
東京労災病院について
— 東京労災病院という職場の環境や、制度について教えてください。
「職場環境はすごくフレンドリーです。特に私の病棟は一人ひとりが相手を尊重して、思いやることができている職場だと感じます。
家庭の育児や介護をしながらでも仕事を継続できる制度があって、たとえば子の看護休暇という制度に魅力を感じています。子供の体調が悪いときなど、後ろめたさを覚えずに感謝をしながら、休暇の申請・取得ができるかと思います。当院では男性看護師もこの休暇の取得実績があります。
休暇については日頃から取得しやすいよう心掛けていて、前日の時点でお子さんの具合が悪いという報告を受けていれば、その休暇を希望しているスタッフの仕事を別のスタッフへ移すことができるよう、業務の割り振りを考えています」
— 地域医療を支える病院として、退院支援・調整を積極的に行っているそうですね。その調整は、どの時点から始まるのでしょうか?
「来院された瞬間から始まります。ご家庭の状況、ご家族の介護力などの情報収集から始まり、退院後の療養先が施設になる場合はどういう施設が候補なのか、自宅に戻られるなら今の日常生活レベルを入院前と比べて、必要であればサービスの追加を検討したり。そういうことを院内外の多職種の方々と連携して話し合いながら、退院に向けて準備をしていきます。
また当院を退院された後も、退院後訪問という取り組みで、関わった患者さんのご自宅を訪ねて、体重のコントロール状況やお食事の摂取状況を確認させてもらっています」
リーダーとしての能力を身につける
— 看護師として、今後のキャリアの展望を教えてください。
「内科系病棟の経験しかないので、外科系領域も経験して、自身の知識やアセスメント能力を高めていきたいと思っています。
将来はスタッフ一人ひとりを大切にして、全員が居場所を作りながらやりがいを感じて働ける環境を作り出せる、頼れるリーダーになりたいと思っています。ですから普段からスタッフたちと楽しく働けるようにコミュニケーションを図っていて、これからも続けていきたいと思います。
今年度、私は次期管理者を目指して看護師昇任試験を受験し合格することができました。受験勉強をしていくなかで今までよりも視野が広がったと思います。そのとき、リーダーの与える影響が個人から病院全体まで及んでいくということを改めて理解しました。今後は理念や目標を日々意識し、教育に関する知識を深めて、関わっていく人たちの成長を助けられるように務めていきたいと思っています」
