さかいりはグループが展開する『さかいリハ訪問看護ステーション』は、平成15年に千葉県船橋市で創業した地域密着型の訪問看護・リハビリテーションのケアステーション。多数のリハビリ専門スタッフを擁し、個人のニーズに対応した訪問型のリハビリテーションサービスの提供に力を入れています。平成29年現在では千葉県内に8つ、東京・神奈川に4つの事業所、加えて同グループの『リハプロ訪問看護ステーション』が名古屋・大阪で3つの事業所を展開し、東名阪エリアでその規模を拡大しています。
LALANURSEではさかいりはグループの関係者の方々へのインタビューを実施。全3回の特集記事として、3週に分けて公開します。
第1回となる今回は、同グループを形成する株式会社祥ファクトリ・株式会社リハプロの代表取締役、阪井春枝さんに経営と訪問看護にかける想いを伺います。
(第1回/全3回)
目次
「自宅にいながら看護やリハビリを受けられる環境を作りたい」 — 創業の理念
— 訪問看護を志すようになったきっかけを教えてください。
「ある日、理学療法士である夫に、訪問看護ステーションをやってみないかと言われまして。当時、夫は茨城県立医療大学に勤務しており、この船橋市内に住んでいても茨城までリハビリの外来受診をされる方がいらっしゃることを教えてくれました。リハビリテーションや看護を必要とされる方にはとても不便な環境だということを、そのとき初めて知ったんですね」
茨城県立医療大学の最寄り駅は、関東最大の湖・霞ヶ浦もほど近いJR常磐線の荒川沖駅。さらに駅から大学病院までは直線距離で4キロ。JR船橋駅から向かう場合、電車とバスを乗り継いで2時間弱かかる距離です。
「当時、私たちもちょうど3人の子育てをしていました。私も病院に勤務していた頃は、ちょっと外来にかかりたいというときも空いた時間でささっと受診ができたのですが……病院の環境から出て受診する側になったときに、たとえ健常な子どもでも、ただ熱が出たというときでも、3人を連れて病院に連れて行くのって、こんなに大変なんだというところを実感しました」
不自由な体で長距離を移動して外来受診しなければならないことは、患者本人やその家族にとって生活上の大きな負担です。
「小さなお子さんでも、人工呼吸器などいろんな装備をつけて車に乗せて……。受診するためにも大変な準備をされているということが、自分が受診する立場になってやっとわかったというのが大きかったですね。それで、お家にリハビリや看護が来てくれたら便利になるんじゃないかと考えたところが訪問看護を志したきっかけでした。『自宅にいながら看護やリハビリを受けられる環境を作りたい』というのは、今も弊社が大切にしている考えです」

船橋市薬園台にあるさかいリハ訪問看護ステーション・船橋ステーションの施設外観。リハビリ専門デイサービスWHIZ倶楽部を併設する
看護師としてのキャリア
— 病院に勤務されていた頃は、どのような経歴を歩まれたのでしょうか。
「看護学校を卒業後、助産師学校に進学しました。臨床経験としては、現在の千葉メディカルセンターの前身であります川崎製鉄健康保険組合千葉病院の産科病棟のほか、千葉市内の病院で認知症の方を対象とした病棟や、外科・内科・整形外科の混合病棟などを経験いたしました。病院は、人の生から死までの一連の部分を拝見させていただいた経験になったと思います」
その他にも看護学校・介護学校の非常勤講師や介護用語集の執筆協力など、病棟勤務に留まらない多岐にわたる仕事を経験してきた阪井さん。その熱意の根本には、幼少時の出来事がありました。
「私は、生まれつき左の頬にあざがあって生まれてきたんですね。民間療法でどこの水がいいと聞くと、その水を持ってきて塗ってくれたり……生まれてからずっと両親に心配をかけていた。そのあざを、小学校1年生のときに切除したんです。両親にかけていた心配を、手術で一気に取り払ってくれた医療ってすごいな、とそのときに思いまして、それが看護師を志した最初のきっかけです」
船橋市の妊産婦・新生児訪問指導員を務めるなど、看護師としてのみならず助産師としての現場でも活躍してきた阪井さんですが、現在は200名近い従業員を抱える事業を率いる経営者。開業にあたっての不安はなかったのでしょうか。
「助産師学校に入ったときから、『私、将来開業します』という同期がたくさんいましたので、当初から開業というのに自分自身は抵抗がなかったんです。それで、機会があったら何かやってもいいかな、という気持ちがありました」
― 訪問看護ステーションの新規設置数が年々増加しています。阪井さんのように看護師の起業という例も多く、看護師のキャリアとして今後ますます注目されそうですが。
「日本は、医師の指示の下という意識がすごく強くて、病院の中にいると、何かあったらドクターを頼るという認識があって。アメリカなど海外では、看護の専門性や病院の中での看護師の地位がちゃんと確立していて、日本とは逆に自分の守備範囲をしっかりしているところがあります。制度として私たち看護師にも訪問看護ステーションの開業権を与えられたということは、そういう自分の守備範囲をしっかりと専門性を持ってやりなさい、ということなんじゃないかなとも思っていますね」

自身のキャリアについて語る、さかいりはグループ代表取締役・阪井春枝さん
さかいリハ訪問看護ステーションでの勤務について
未経験からサポートする体制
— 訪問看護は様々な症状・幅広い年齢の方が利用される看護ということで、看護師として病棟での勤務経験を積んでから初めて臨むことができるキャリアであると言われています。
「症例が幅広いから訪問看護は臨床経験がないと、という固定概念はまだまだあると思います。でも新卒で病院に勤務するときも、手術室や救急に配属されることって実は当たり前なんですよね。その配属先の一つとして訪問看護という選択肢がなぜないのかな。訪問看護の場合はドクターがいないから、ということがあるのかもしれませんが……私たち看護師自身がそこにチャレンジをしてこなかったのは、大きいんじゃないかと思います」
― 2025年までに計画されている病床数削減で、看護師の勤務先という意味での病院の間口が狭くなっていきます。在宅医療に移行する患者が増え、今後は訪問看護という仕事が看護師のキャリアとして選ばれる機会が多くなっていくと予想されます。
「初めてのところで学ぶということは、どこでも一緒だと思うので……誰でも1日目はあるし、そういう意味で、訪問看護だからと言って尻込みをしないで、チャレンジをしていただきたいなと思っております」
― これから訪問看護に挑戦する方への、さかいりはグループのサポート体制を教えてください。
「弊社に入社された方には、まずは独自の研修プログラムに沿ってサポートをさせていただきます。関係法規や訪問看護業務の流れ、当社で導入しているシステムの使い方など。そしてやはり大事なのが利用者さまとの関係を築くための接遇ですとか、社外におけるルールといったものがありますので、そういった部分を学んでいただきます」
― 訪問看護が病棟や診療所での勤務と大きく異なる点、患者さんにとっての最もパーソナルな領域である居宅に立ち入ることは、細やかな心遣いが要求されます。訪問看護を初めて経験する看護師には、不安になる方もいるかと思いますが……。
「弊社では、パートナーシップをとっておりまして、質問などの窓口を明確にするようにしております。同行の訪問に関しても、その方の現状に応じて無理のないように個別の対応をして、安心して現場に出ていただくようにしております。ご入社された方が、少しでも早く弊社での業務を楽しんでいただけるようなサポートを目指しております」
スキルアップを支援する制度
— 訪問看護師はさまざまな看護分野のゼネラリストである一方で、それまでの臨床経験で培ったスペシャリティを発揮できる場面もあります。さかいりはグループでは、特定の看護分野に熟練した技術と知識を備えた看護師であることを証明する認定看護師の資格取得を支援する制度も設けているとのことですが。
「常に学習と努力を惜しまず、本当に感心するくらい、ホスピタリティが高い方が多い業界です。当社の門を叩いてくださった方が、単なる資格取得ではなく確かな看護能力を身につけることで『さかいリハに来てよかった』と思っていただきたい。そんな一心でキャリアを支援する制度を設計して、会社としても積極的に後押しをしていきたいと考えています」
過去3年のスキルアップ研修受講・修了実績(一部) |
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訪問看護の基礎研修 |
赤ちゃん体操指導員養成 |
呼吸療法認定士認定 |
精神科訪問看護基本療養費算定要件研修 |
フットケア |
各種学会出席 |

船橋ステーション内のセミナールーム。研修・講習など多目的に利用できる
24時間体制を実施しない
「『昼間のケアにいかに注力して取り組むか』ということは、24時間体制であってもなくても、どの事業所でも一緒だと思うんです。当社では夜間の体制を取っていない分、昼間をしっかりやるということに集中をしています。ご利用者さまの状態の変化に対しては、こうなったときにはこうしましょうと前もってご本人・ご家族さま、ケアマネージャーや医師など、取り巻く方々を含めて取り決めをしておくことで、この体制を実行させていただいています。もちろん業務時間内は緊急出動もしていますので、そういう意味でもしっかり昼間にやりきっておくという方針で、現場は頑張ってもらっています」
― 夜間業務へのプレッシャーがなくなることでワーク・ライフ・バランスが安定し、働きやすい環境で続けることができますね。しかし24時間体制に取り組む事業所が数多くあるなかで、利用者からのニーズに応えていくことはできるのでしょうか。
「医療ニーズの高い難病の方などは、24時間体制の他の訪問看護ステーションとチームを組んで訪問させていただくこともあります。メインは24時間のステーションが入っていらっしゃるので、サブで、そちらの訪問では行われない部分を補わせていただくような体制でスタートするんですけれども……ご利用を通じてご評価いただき、当社がメインになっていることもあります。『24時間だから』ではなく、いかに現場でご利用者さまに選ばれるサービスをするかというところが大事なのだと考えますね」
休暇の取得、育児支援
「指定休制度という弊社独自の制度を採用しています。ご自身のライフサイクルに合わせた働き方をしていただくための方法で、ご自身の予定で、計画的に付与された休日を使っていただくことが可能となっています。時間短縮の勤務や業務日数の変更も柔軟に対応しておりますし、もちろん産前・産後の休暇や育休の実績もあります。平成29年1月からは復職就労支援として、認可保育園へ入所できず無認可保育園へ預ける場合のサポート制度も構築しました」
平成25年には、船橋市子育て支援優良事業所として『子育てゆうゆうふなばし委員会委員長賞』も受賞しているさかいリハ。阪井さんも3人の子育てを経験し、子育てをしながら働くことの大変さを知っているからこそ、スタッフの子育ても応援していきたいという想いがあります。

子育てゆうゆうふなばし推進委員会委員長賞の受賞の証である、表彰状と楯
さかいりはグループが描くヴィジョン
変わってきた地域の意識
— 平成15年の創業から現在に至るまで、地域の変化を感じることはありますか?
「この船橋地域で創業した当初は、『リハビリって何?訪問看護って何してくれるの?』というところからスタートでした。それからもう14年目になって、現在では船橋市のケアマネージャーのリハビリや看護に対する認識がすごく高いな、と実感しています。
開業当時は訪問看護・リハビリが周りになかったので、珍しくてご依頼をいただくという部分が大きかった。けれども今は全国的にも訪問看護ステーションが増えて、リハビリや看護が当たり前という認識がかなりできつつあると思います。自分たちがやりたいことだけでは駄目ですね。ここからは私たちがもっと何ができるか、ご利用者さまの多様な個別のニーズに対して、いかに答えていけるのかというところです」

平成14年から平成26年までの全国の訪問看護事業所数の推移グラフ。12年で約1.4倍に増加(出典:アフターサービス推進室活動報告書(Vol.15:2014年3月~6月)平成26年6月30日 別添 訪問看護ステーションの事業運営に関する調査詳細(厚生労働省)(http://www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol15/dl/after-service-vol15_2.pdf))
これからの訪問リハビリスタッフに求められるもの
— 訪問看護の一環としてリハビリテーションを実施するステーションが増加しています。いち早く訪問リハの提供を始めたさかいりはグループのリハビリ業務への取り組み方についてを教えてください。
「当社では『リハビリだけ』というケアマネージャーさんからのご依頼も多数あります。そうなると、看護師がいつでもリハスタッフと相談できる関係性の構築というのは強くしようというところでやっていますので、いつでも相談できるように関係を整えているところであります。
ただ看護をするだけではなく、ご利用者さまの目標達成に寄与できるようにサポートするということが、訪問看護師としての役割の一つだと考えています。リハビリは目標達成のための手段ですから、看護師もわからないことをリハスタッフに聞きますし、リハの視点を教えてもらうことを常にしています。なので、当社はリハスタッフと看護師はすごく仲がいいです。そういった意味で、ご利用者さまの生活をサポートするための努力は、みんなすごく頑張ってくれているなと思います。
訪問看護ステーションだから看護師だけでがちがちにやりましょうねという時代でもなくなってきているので、多職種でよりよいものを提供するというマインドは大切です。だからといって最初からリハができないといけないわけではなく、利用者さんのニーズがあればそこに応えるべく、そのときが来てから努力すればいいですし。
当社では申し送りと別にミニカンファレンスとして、多職種で意見をくみ交わすことを日々やろうと、今取り組みを始めています。いつでも相談できる仲間がいますので、無理しないでわからないことをわからないと言える素直さを持っていてくれれば大丈夫かなと思います」
2025年に向けて
— 病床数削減、高齢者人口の増加、在宅医療の推進、地域包括ケアシステムの構築……2025年に向けて訪問看護を取り巻く状況が変化していく中で、さかいりはグループが考えるこれからのヴィジョンを教えてください。
「私たちの看護師という仕事は、国家資格なんですね。国家資格ってなんだろうと考えると、『国のためになるからこそ、この仕事をやっていいよ』とお墨付きをいただいている資格だと思うんです。国民のために、いかに資格をもって寄与できるか。だからこそ国の方向性に合わせてやっていくことも、今また一つ大事なことであると考えています。
今、AIや人工知能といった機械化が進んでいますから、そういったところから私たちの業界の人手不足を後押ししてくれるものがこれからたくさん出てくるんじゃないかとは、すごく期待をしているところです。けれども最後はやはり人の手でなければできないケアが絶対にあると思いますので、私たちは地域包括ケアの一員として、地域の方に喜んでいただけるケアに活動と参加という視点に立って取り組むことができる仲間を増やしていきたい。これからに向けての私たちの考え方です」

次回は阪井さんに加えてさかいりはグループの現場で働く訪問看護師を交えた、職場の雰囲気を紐解くクロスインタビューを実施します。