前回は株式会社トータルライフケア(以下、トータルライフケア)代表取締役・西海奉成さんに理学療法士からスタートしたキャリアと事業展開について伺いました。今回は、トータルライフケア用賀訪問看護ステーションで訪問看護師、そして管理者として働く(※本記事の公開時点では産休を取得中)岩崎さんからお話を伺います。病棟と在宅それぞれの勤務の違いや、トータルライフケアで働くことの魅力についてお答えいただきました。
(第2回/全2回)
目次
病院での経験が今に活きる
— 看護師を志したきっかけを教えてください。
「私は青森の人口3,000人程度の小さな村出身だったので、そこにあった診療所は看護師さんも先生も毎回同じ人たちで、家族みたいな感じですよね。病院に対してすごくアットホームなイメージがあったんです。高校に入ったときに、姉が就職に苦労していたこともあって、親からは何か手に職を付けたほうがいいと言われていて。人と接するのも好きだったので、それで看護の道を考えるようになりました」
— 訪問看護師になる前のキャリアを教えてください。
「看護学校の卒業後は千葉県内の総合病院で勤務していました。循環器内科病棟、心臓外科病棟、あとは救命救急治療室。混合病棟になっているところで勤務をしていて、主に心臓を看ていました。その後、もっと見識を深めたいと思い転職して、そちらでも病棟で働いていて、トータル6、7年、病院で勤務しています」
— 訪問看護に興味をもったきっかけを教えてください。
「働く環境が変わったことでちょっと体調を崩したり、勤務体制が合わなかったりというのもありましたが……2ヶ所の病院で両方とも心臓の病棟で働いていて、急性期や緊急入院で心臓の手術をするという方々を看ていく中で、心臓って1回手術したからもういい、というものではないから、退院しても在宅での日常生活がうまくコントロールできなくて戻ってくる方が多いんです。それで在宅に興味を持ちました」
— 心臓を看てきた経験が訪問看護で役に立ったということはありましたか?
「もちろんです。高齢になってくると高血圧だったり、心臓の持病をお持ちだったりということも多いので、それはすごく今になって役立っています。反面、この知識をもうちょっと病院で付けてきたら、こういうところがもっと得意だったら、ということも目に見えて出てくるので、そこは自分にプラスしていきたいと課題になってきています」
— 管理者になってから、心がけや物事の見方で変化したことを教えてください。
「管理者になって、今まで一看護師として利用者さまに不利益のないように努めて訪問していたことに加えて、今度はスタッフが働きやすい環境という目線が加わってきています。例えばスタッフが楽しく利用者さまのところへ行けるように環境を整えたり、スタッフが法的なミスをしないようその注意を促したり、ケアマネジャーさんとの連携で間に入ったり。何か新しい特別なことをやっているわけではないんですが、役割が変わってきているのは感じます」

病院で働いていたときは、他所の病院の情報は入ってきても、在宅の情報は全くわからなかったという岩崎さん
病院と訪問看護の違い
— 病棟勤務から訪問看護に転職して、最初に感じた違いを教えてください。
「先生が近くにいて指示を出して、患者さまにはモニターや機器類を付けて、全身状態をしっかり管理できる環境が、病院はもちろん整っています。一方で在宅に来たら、カルテの紙1枚だけなんです。そこに書かれた指示のみで半年間、患者さまの体を管理していくという形になるので……これだけなんですか? と。
そして困ったことがあって主治医の先生と連絡を取りたくても、特にそれが大きな病院になるとなかなか難しい。今まで自分がそちら側で働いていたんですけど、いざ在宅に来てみると、連携を取るというのはすごく大事だけどやっぱり難しいということも感じました」
看護方法のギャップを感じる一方で、訪問看護の面白さもすぐに感じられたといいます。
「病院だと『どうしていましたか? おうちでの食事はどうですか?』と聞く必要がある日常生活の様子が、在宅だと訪問してすぐ目に入ってきて、その人にとって当たり前な生活環境が見えてくるので、私にできることがもっとありそうだ、力になれるところがあるんじゃないかとか、そういうことを考えられるのはすごく楽しい、在宅ならではのプラスのポイントでした」
— 病棟勤務と訪問看護で感じたやりがいの違いを教えてください。
「病院にいる間は急性期の患者さまや救急搬送される方が多かったりもしましたから、そういった方々の治療が順調に進んで笑顔で退院されたり、途中で調子が悪くなって治療が長くなりながらも、退院されてご家族さまと笑顔で会っている姿を見られたり、ということはすごくやりがいでした」
病院と在宅では、目的が違う。病院は治療するためのところで、患者にはそのための制限が強くなる一方で、在宅は利用者の希望にどこまで寄り添えるかというところだと岩崎さんは考えます。
「在宅では1対1の付き合いになるので、最初は受け入れてもらえない方とも、もちろん付き合っていかなければならない。ですがそういう方々と少しずつわかり合えたり、頼ってくれたりするとき。利用者さまから『待っていたよ』とか、そういった言葉をいただけるととてもうれしいですし、すごくやりがいにもなります」
— 訪問看護で感じた苦労・苦悩や、それを乗り越えていった経験を教えてください。
「担当する利用者さまとの付き合いが長くなる中で、知識不足で自分ができることとできないことが出てきてしまって、葛藤することもありました。そのときに支えになったのは、やっぱりスタッフでしたね。けっこう年齢も幅広く、50・60代の先輩ナースから、20代も働いていて、それぞれいろいろな経験を積んできています。うちの会社はすごく聞きやすい環境なので、お互いに尊重しながら接することで乗り越えてきているという感じです」

トータルライフケアについて
トータルライフケアの業務体制
— トータルライフケアでの、管理者としての業務スケジュールを教えてください。
「8時45分から仕事が始まります。まずミーティングをして、その後1日に3件程度の訪問を行って、空いている時間で契約だったり、スタッフとのコミュニケーションだったり、あと病院など外部との連携だったりを行っています。17時45分が定時です。一般の看護師スタッフは、ミーティングをみんなでやった後に1日5件、多いスタッフだと6、7件は回っている状況で、およそ1時間ごとに次の訪問先へ回っているという形になります」
この7月から産休に入った岩崎さん。6月は業務を新しいスタッフに引き継ぎ、自身は契約業務や新人の訪問同行がメインだったそうです。
「引き継ぎにあたって心配はありませんでした。訪問にあたっては、必ず2回は一緒に利用者さんと顔を合わせて仕事の内容を見せたり、今度は確認したりという時間を設けるようにしていて、代わるスタッフへ利用者さまを引き継ぐことはまったく問題ないです。
管理者業務としても、会社の上層部から私の代わりに管理者になる予定の者を立てて、その人の訪問件数も少なくして業務の引き継ぎをしっかりできるようにしてもらえました。2カ月弱ぐらいは一緒に書類を作ったりする時間も用意されているので、交代する人・される人が不安にならないような体制を作ることは、会社全体の仕組みとして準備されています」
トータルライフケアでの働き方
— トータルライフケアの制度で助かっていることを教えてください。
「社長もスタッフが働く環境をすごく意識されていて、私たちと話をしながら制度を整えてくれていますので、フレックスタイムや週休3日の常勤制度などすごく魅力的だなと、いつも働きながら思っています。利用者さまからの呼び出しに対応することもあり定時で仕事を終えるのが難しいこともある中で、フレックスで空いている時間を活用できるのはリフレッシュにもなって助かっています」
トータルライフケアの看護師なら誰でも利用できるフレックスタイム。働き方改革が叫ばれる昨今で、スタッフの働きやすい環境作りに全社的に取り組んでいます。
「私自身も管理者としてスタッフには、使っていいよ、ともちろん。有給休暇も前向きに取れたら取ろうというスタンスでいるので、お互いに声を掛け合ってという形で流れができています。18時には子どものお迎えにいかなきゃいけないスタッフもいるので、その時間には帰れるように訪問件数を調整したりとか、バックアップ体制をみんなで作っています」
トータルライフケアのいいところ
— ここがトータルライフケアのいいところだと感じることを教えてください。
「一番はスタッフがそれぞれが魅力的なところですね。社長、専務、常務、皆さんとても優しく、いろいろ考えたりして、それをちゃんと下に下ろしてくれて、すごく安心感があります。事業所の所長同士もすごく連携が取れているので頼れるし、支え合えるというのが1つ魅力的だと思います」

前回の記事で紹介したTLC AGRI PROJECTも大きな魅力だと語る
フットケアへの取り組み
— フットケアのスキルを身に付けたきっかけを教えてください。
「リハビリをやってきていくら体力がついてきても、やっぱり足に巻き爪やたこがあって痛いとなるとそれが原因で歩けないという方が多いので、そこを治療できたら一番いいんじゃないかと思います。そのための研修を、外部へ受講料を払って勉強に行くというのではなくて、トータルライフケアでは社内で受けられる。まずは管理者を集めて所長が率先して習得しようという形で、勤務の時間内でその時間を設けて習得させていただいたので、それはすごくきっかけになっています」
— フットケアの施術にあたって困ったことはありましたか?
「そんなに不安を感じることはないです。依頼があったとき、最初のうちは教えている先生が一緒に行きましょうということで、今は私がそうしていますし。利用者さまの足に新しく何か出来てしまったというときは、ご本人の許可があれば写真を撮ってきて社内で相談できるので、そんなに困ったことにはなっていないですね」
— フットケアを利用者の方へ施術したときの反応はいかがでしょうか。
「皆さん、足を触られることって、『汚いから』とか『恥ずかしいから』とすごく意識されるんです。だから『そんなとこ触ってもらえるの』と、すごくぜいたくな感じがする。利用者さまにはそういった満足感が生まれ、痛いところが解消する。それでただ喜ぶだけじゃなくて、リハビリの効果と一体になって、生活の幅が広がる。外に出られた、家族と旅行に行けた、という事例もあって、すごくやりがいに感じます。
看護師で耳を掃除してほしいとか、日常のケアで言われることはもちろんやりますし、その流れで全身的に、足のケアもできる。利用者さまを看る上で一つの指標になって、質の高い看護を提供できるかなと思います」

岩崎さんによるフットケアの施術の様子
今後の展望
— 看護師として、これから力を入れていきたいことを教えてください。
「今、弊社では小児の看護リハビリから高齢者の在宅ケア・看取りまでをテーマにしています。用賀ステーションで約200人の利用者がいる中、小児は5人程度というところです。私自身、病院でも成人で働いていて、小児自体を実際に看る機会が少ないので、そこに力を向けていきたいですね」
— 今後訪問看護の世界に入ってくる人たちに向けて、メッセージをお願いします。
「在宅は病院から見えなかったり、看護学校の実習で2週間ぐらい行ってみたりする程度で、ちょっと怖いのかなと。何かあったら一人で対応しなきゃいけないという想像が、私も病院で働いているときはありました。でも今は国としても在宅看護に力を入れていて、いろんな企業それぞれがバックアップにも力を入れていますので、今後訪問看護の世界に入ってくる方には、そんなに怖がらずに来てほしいと思います」
