がん化学療法とは、抗がん剤を用いたがんの治療法の一つです。
近年、抗がん剤治療は単剤で投与することよりも、多剤併用療法が主流になってきています。さらに「分子標的治療薬」という新しいカテゴリーの薬も登場して、抗がん剤治療は複雑化してきました。
このことは治療の効果を高め、以前は不治の病といわれたがんでも、症状を和らげ、進行を抑制して状態を維持できるケースが増えています。
しかしその一方で、これまで見られなかった副作用も出るようになりました。副作用が出たとしても、早期に対処してコントロールすれば、患者の負担を和らげることができるだけでなく、抗がん剤治療の効果を高めることにも繋がります。がん治療の現場では医師や薬剤師だけでなく、普段から患者と接する看護師の知識や観察力が求められるようになっているのです。
今回から三回に渡って、がん化学療法における副作用と看護師に求められる対処法を取り上げます。
第一弾は、よく現れる副作用のうち、吐き気・嘔吐、骨髄抑制(易感染状態、貧血、出血傾向)の症状について見ていきましょう。
抗がん剤の副作用を知る
抗がん剤とは、がん細胞を攻撃して殺細胞作用を及ぼし、がん細胞の増殖を抑える治療薬です。しかし抗がん剤はがん細胞のみにその作用を示すわけではありません。正常な細胞にも作用してしまうことで、様々な副作用を引き起こします。
がん治療において看護師が副作用の症状をあらかじめ知っておくことは重要です。
副作用が出現する時期は様々ですが、主に以下の通り分類できます。
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【投与当日】
- アレルギー反応
- 血管痛
- 吐き気、嘔吐
- 食欲低下
- 下痢
- 便秘
- 倦怠感
- 血管痛
- 骨髄抑制
- 便秘
- 下痢
- 口内炎
- 味覚異常
- 脱毛
- 皮膚の色素沈着
- 爪の変形
- 手足のしびれ
- 骨髄抑制
【当日~1週間】
【1週間~2週間】
【2週間~1ヶ月】
これらは使用する抗がん剤の種類によっても異なりますが、一般的な副作用のほか、抗がん剤の種類による特徴的な副作用も知っておく必要があります。
例えば吐き気・嘔吐を引き起こしやすい抗がん剤としては
- シスプラチン
- シクロホスファミド(>1,500mg/㎡)
- ダカルバジン
- ドキソルビシン+シクロホスファミド
- エピルビシン+シクロホスファミド
が高度リスク(90%以上出現する)とされています。
その一方、最小リスク(出現が10%以下)の抗がん剤もあり、抗がん剤によって出現の確率が変わります。
今後も新薬が次々に登場していくことになりますので、常に新しい情報を得られるよう努める必要があります。

抗がん剤治療の副作用と発現時期 (出典:国立がん研究センターがん情報サービス)(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/attention/chemotherapy/about_chemotherapy.html”)
副作用に対処するための看護師の役割
近年では入院せず、外来での抗がん剤治療を選択することも増えてきました。そうなると、副作用対策としては医師や薬剤師のみならず、自宅でも患者自ら対処できるよう、医療チームが支援していくことが大切です。
治療を始める前には、抗がん剤の種類によって、どのような副作用があるのか、またどういった対処をすれば副作用を和らげることができるのかを説明します。わかりやすいパンフレットなどを用意し、時には画像を使うなど、理解しやすいよう丁寧な支援が必要です。
患者の理解が進めば、在宅療養での不安を軽減することもできます。いざ副作用の症状が出た時も慌てず、冷静に対処できるかもしれません。
副作用の対処法①吐き気・嘔吐
吐き気・嘔吐は、抗がん剤によって延髄外側網様体にある嘔吐中枢が刺激されることで発生します。吐き気が長く続くと食欲が低下し、低栄養状態や脱水を引き起こすこともあります。脱水症状は脱力感や倦怠感、皮膚の乾燥などが現れますから、それらも注意深く観察していく必要があります。
抗がん剤の治療中には、対策として予防的に制吐剤を使用します。抗がん剤によるリスクに合わせた「制吐薬適正使用ガイドライン」(日本癌治療学会)が定められており、そこに示される使用方法に沿って制吐剤を使用するのが一般的です。
入院患者など看護師が患者に接する際の注意点です。
吐き気がある場合の看護においては、まず食事の際に様々な点に留意する必要が生じます。
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【食事の際の留意点】
- 副作用によって味覚が変わることがあるため、無理にをせず、本人のペースで嗜好に合うものを食べてもらう
- 胃に負担の少ないもの、消化しやすいもの、刺激の少ないものを食べてもらう
- 食事がとれなければ、無理に食事を取らせるのではなく、栄養補助食品や栄
養バランス飲料などを効果的に利用する - 食事の前に口内をさっぱりさせるため、冷水でうがいをする
続いて、入院環境も調整します。
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【環境の留意点】
- 部屋は常に清潔にします。吐物などで汚染した衣服などはすぐに清潔なものと交換する
- ベッドサイドにガーグルベースンを用意しておく
- 身体を締め付けない服装を薦める
副作用の対処法②易感染状態
吐き気に続いては、易感染性について触れていきます。
副作用により造血機能が障害され、白血球や血小板、赤血球などの血球成分が減少する状態を、「骨髄抑制」といいます。そのうち、白血球および好中球が減少した状態になると、通常備わっている抵抗力が減少し、感染を起こしやすい状態になります。これを「易感染状態」といいます。
いったん感染症が起こると、38℃以上の発熱や発汗、悪寒、場合によっては皮膚に水疱や皮疹を認めるなど、全身に様々な症状が表れます。バイタルサインのほか血液検査などの結果も合わせての判断が求められます。
易感染状態となった場合、出現した症状に応じて医師による投薬の処方が必要です。
看護においては、できる限り感染を防ぐための感染予防指導が重要になってきます。
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【感染予防の留意点】
- 外出の際はマスクを着用する
- できるだけ人混みに近づかないよう指導する
- 保菌の可能性がある場合、患者に近づかせないよう周囲に対しても指導する
- 食事前と排泄後は石鹸や消毒液による手洗いを徹底させる
- 外出後にはうがいをする
- 食事は生ものを避け、加熱調理したものを優先する
副作用の対処法③貧血
「骨髄抑制」のうち、血液中のヘモグロビンが減少した状態が「貧血」です。骨髄の造血機能が低下、あるいは食欲不振によって造血に必要なたんぱく質や鉄が欠乏し、赤血球の生産能力が低下することで起こります。
貧血になると、皮膚や顔面の蒼白、動悸・息切れ、頭痛、耳鳴りなどの症状が出ます。ただし、慢性的にゆっくり進行した場合など、ヘマトクリット値が正常以下まで下がっても、自覚症状が乏しい場合もあります。
看護においては、安静の確保と予防が重要です。
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【生活の留意点】
- 普段から十分な休息をとってもらい、無理をしない
- めまいなどがあれば安静を保つ
- 貧血により血行が悪くなりがちなので、入浴などで身体を温める(ぬるめのお湯で疲れないように)
- 靴下を履くなど、手足を温める
- ベッドのすぐ近くに毛布を用意しておく
副作用の対処法④出血傾向
出血傾向とは、止血のための機能が正常に働かず、出血が抑制できない状態をいいます。
「骨髄抑制」のうち、特に血小板が減少した場合に起こります。血小板は、血管が損傷したときに集合して、傷口を塞ぐ機能を持っているため。それが減少すれば、出血を止められなくなるというわけです。
看護においては、身体の中でも出血しやすい部位について説明を行います。そのうえ対策について指導していきます。
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【出血予防の留意点】
- つまずいて転んだり、体に傷を負ったりしないよう十分指導を行う
- 歯茎からの出血を予防するため、柔らかめの歯ブラシを選び、歯肉を傷つけないよう指導する
- 鼻血を予防するため、強く鼻をかまないよう指導する
- 皮膚の乾燥を防ぐため、保湿クリームを勧める
- 注射や採血の後は、血が止まるまで(5分以上)しっかり押さえるようにし、出血が止まったことを確認する