『和光会グループ』は岐阜県岐阜市を中心に、医療・福祉の両面でサービスを提供しています。92年(本記事公開時点)の歴史を持ち、現在は病院・診療所・訪問看護ステーション・老人保健施設・介護事業所など多岐に渡る事業所を展開。その事業所数は岐阜県内で50を超え、地域包括ケアシステム構築の担い手として注目を浴びているグループです。
LALANURSEでは、そんな和光会グループで、特に地域と接点の多い訪問看護ステーションに勤務する関係者の方々をインタビュー。国が在宅医療を推進する中、注目が高まる「訪問看護師」というキャリアにスポットを当て、全2回の特集記事として、2週に分けて公開します。
第1回となる今回は、グループ傘下の医療法人和光会が運営する『訪問看護ステーション和光』の所長(訪問看護師)・原さんと訪問看護師・尾崎さんにお話を伺います。
写真左から:訪問看護ステーション和光所長・原さん、訪問看護師・尾崎さん
(第1回/全2回) 第2回はこちら
子育てブランクからのスタート
— お二人が看護の道に進まれたきっかけを教えてください。
原さん(以下、敬称略):中学生の頃、父が入院したときに看護師さんを身近で見て、すごく素敵だなと思ったことがきっかけです。あと現実的な面で、子どもを産んでもずっと働ける仕事なのも大きかったです。将来のことも考えて、看護師の資格を取得しました。
尾崎さん(以下、敬称略):私も高校生の頃に母が入院していて、病院で白衣の天使の皆さんがきびきびと働かれているのを見て憧れたのが、看護師を目指そうと思ったきっかけです。
— 訪問看護師になった経緯を教えてください。
原:看護学生のときに、先生の往診について地域を回った経験があって。その時、自宅に入ってじっくりやる看護師っていいなと思いました。でも当時は今みたいな訪問看護がない時代でしたし、看護学校を卒業してすぐ家庭に入ったので、ずっと訪問看護とは縁のない状態でした。それが、少し子育ても落ち着いて、そろそろ仕事を考えてもいいかなと思ったとき、たまたま看護協会の方から「今、訪問看護をやっているところがあるけど、どう?」という紹介をもらったんです。話を聞きに行ってみたら、私が考えていた仕事像、地域で看護師の役割を発揮したいという気持ちとピッタリ合っていたので、いきなり飛び込みました。ブランクがあって大変でしたがそのまま22年経ち今に至っています(笑)。
尾崎:私はもともと和光会グループの医療機関で外来担当の看護師として勤務していました。しばらくして外来と訪問看護を兼務するようになり、その後、訪問看護一本で働きたくなって、訪問看護ステーションを希望しそのまま6年ほど勤務しています。

病院では見せない姿を知る醍醐味
— 訪問看護の仕事について、実感を教えてください。
原:訪問看護師は患者さんの住まいにうかがうので、その人の生活、取り巻くいろんな環境が見えて、なんでこんな病気になったのか、入院したのかということがすごくわかります。病院では患者さんの病気のことが中心で生活のことは見えにくいと思います。
尾崎:訪問看護は患者さんのホームに私たちがお邪魔する形になるので、言葉は悪いですが、アウェイ感はすごくあります。病院の場合は、医師や看護師のホームに患者さんが来るという形ですよね。
原:患者さんは、お医者さんの前だとちょっとお利口さんになり、かしこまる部分がありますが、在宅では素の表情が見えます。患者さんの素に近づいていろんな場面を見ながら看護ができるのは、訪問看護の素晴らしい点ですね。
尾崎:信頼関係ができていく中で、私たちのアドバイスを聞き入れてもらえて、在宅生活が穏やかに過ごせるように軌道に乗ってくると、すごくやりがいを感じます。
原:今は在宅で最期を迎える方もすごく多くなってきました。とにかく安心して最期まで穏やかに過ごせる、病気と向き合いながら患者さんとそのご家族に寄り添った看護ができるというのは、在宅でしか味わえないアットホームな形。「最期まで看られたのは、みなさんがこうやって来てくれて、病院以上に手厚くやってもらえたからだよ」という言葉をよくいただきますが、そういった瞬間がすごく看護師冥利に尽きますね。次へのステップになりますし、励みになるなと日々感じています。

グループの規模を活かしたトラブル対応
原:ただ、ずっと患者さんのそばにいるわけではないので、それでズレが生じて不信やクレームにつながったりすることもあります。訪問していない間の部分のフォローや、安心や信頼を築き上げることへの難しさは感じますね。
尾崎:私たち訪問看護師が、いかに家庭の中へ入り込んでいけるかは難しいところだと思います。トラブルがあったときは、まず、関わっている中で何がいけなかったのかなって思い返しますね。
原:ヒヤリ・ハットや苦情の相談報告書を作成して、起きてしまった問題は振り返っています。事業所だけでなくグループ全体でも取り組んでいますね。もちろん、普段そういうことがないようにという指導もしますし、スタッフも心がけてくれています。
— グループ全体で事例を集めて、過去に起きたものと近しい事例には迷わず対応できる体制を整えているのですね。
尾崎:現場で「これは」と気づいたことは事務所に連絡して、所長やスタッフに指示を仰ぐこともありますね。まず「これは」という気づき自体ができないと、そのまま見落としてしまうことにもなりかねないので、患者さんの普段の状態をスタッフみんなが共有できるようにカンファレンスを行っています。
原:私は所長という立場として、患者さんの様子はもちろん、スタッフの顔色も常に気にかけるようにしています。スタッフからの報告でクレームに発展しそうだと感じたときは、すぐにお宅に行って事情をうかがいます。初期対応がいかに大切かは、所長になって初めてわかりましたね。クレームに気落ちするだけではなく、次に何をしなければならないかまで考え動くようになりました。

若手を育てていく将来像
— 看護師としての将来的な展望を教えてください。
原:今、グループの中に訪問看護ステーションが4カ所ありますが、そこで訪問看護師の素晴らしさを伝え、グループの中にも広げていきたいです。また、若い子たちが育ってきてくれていますし、これからは、メンバーの育成に力を入れていきたいと思っています。
尾崎:これから地域包括ケアシステムの構築が進んでいくと、訪問看護師の役割は大きくなっていきますが、不安な部分も多いのか、なかなかなり手がいない課題もありますね。
原:訪問看護に入りたがらない理由に、「一人で訪問して判断して、いろんなことをやるのが不安だ」という声をよく聞きます。でも、いきなり一人で行ってきてというわけではありません。私たちの事業所では、最初は同行して、様子が違うときに主治医や事務所へ連絡するための道筋を整えています。特に、患者さんの身にある程度予測されることは、主治医の先生から事前に聞くようにしています。
尾崎:私も、訪問看護師を始めたばかりの人が不安にならないようアドバイスさせていただくとか、声をかけていかないとと感じています。キャリアで培った経験を新しく入ってくる人たちに伝えていけたらなと思っています。

和光会グループが運営する介護老人保健施設 『寺田ガーデン』。訪問看護ステーション和光の事務所も同一敷地内にある(写真提供:和光会グループ)