2018年4月から「介護医療院」がいよいよスタートしました。介護医療院とは、2017年3月末で廃止された介護療養病床(介護療養型医療施設)の新たな転換先として創設された施設です。
目次
介護医療院の特徴
「介護」と「医療」。2つの言葉を併せ持つ介護医療院は、次のような特徴を持っています。
- ① 長期的な医療と介護の複合的ニーズを持つ高齢者が対象
- ② 経管栄養や喀痰吸引などの「日常的な医学管理」や「看取り・ターミナルケア」などの医療サービスを実施
- ③ 利用者の「生活施設」としての機能重視を明確化
- ④ 介護保険適用
「介護医療院」とは、医療機能、介護機能、生活施設を備えた新しいタイプの介護保険施設ということになります。
「介護医療院」登場の経緯
これまでの「介護療養型医療施設」は、長期にわたって医療やリハビリ、介護を必要とする人を対象にしていました。その内訳として、長期的に医療療養が必要な人向けに医療保険が適用される「医療療養病床」と、長期的に介護療養が必要な人向けに介護保険が適用される「介護療養病床」がありました。
しかし、介護療養病床において、治療を必要としない高齢者の“社会的入院”が多いなど、医療と介護が明確に区分されないままに介護療養型医療施設が利用されているといった問題がありました。
そのため厚生労働省は2006年の時点で、2011年度末までに介護療養病床の廃止と老健施設などへの転換促進を定め、医療保険と介護保険の役割分担を明確化して医療費削減を狙いました。しかしその転換はなかなか進まず、2017年度末まで移行期間が延長。さらに2023年度末まで経過措置が図られることになりました。
また、ますます進行する高齢者社会に対応する策として、長期的な療養と生活が両立する施設の必要性も検討されてきました。その結果、2017年5月に「地域包括ケアシステム強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が成立し、まったく新しい施設類型として「介護医療院」が創設されることになったのです。
具体的にどのような施設か
「介護医療院」は2つの類型に分かれる
要介護高齢者の長期療養と生活施設を両立させることを目的とした「介護医療院」。その具体的な指定基準には、Ⅰ型、Ⅱ型という2つの類型があります。
- Ⅰ型・・・施設基準:介護療養病床(療養機能強化型A・B)に相当
主な利用者像:重篤な身体疾患を有する者及び身体合併症を有する認知症高齢者等 - Ⅱ型・・・施設基準:老健施設相当以上
主な利用者像:Ⅰ型と比べて、容体は比較的安定した者

介護医療院の人員基準
※厚生労働省:第158回社会保障審議会介護給付費分科会資料(H30.1.26)「参考資料1 平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について」より
(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000192302.pdf)
医師や看護職員、介護職員の人員基準において、介護療養病床と介護医療院に大きな変化はありません。ただ、同じ介護医療院でも、Ⅰ型は医師の数の指定比率が48:1であるのに対し、Ⅱ型は100:1。老健施設と同基準の比率が指定されていることからも、Ⅰ型とⅡ型では利用者に応じた医療サービスが異なることが分かります。
利用者の“生活の場”としての環境を重要視
また、施設としての指定基準では、次の表で比較する通り、特に「病室・療養室」の床面積と「レクリエーションルーム」の有無において、いかに“生活の場”の視点が重視されているかが分かります。長期療養の場でありながらも、「住まいの機能・環境」に重きを置いているのも「介護医療院」の大きな特徴です。

介護医療院の施設基準
※厚生労働省:第158回社会保障審議会介護給付費分科会資料(H30.1.26)「参考資料1 平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について」より
(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000192302.pdf)
「介護医療院」は今後ますます増加
独立行政法人福祉医療機構が2017年10月に発表した「療養病床の今後の方向」に関するアンケート調査によると、介護療養病床(療養機能強化型 A、B、その他)を届け出ている病院の転換先としては、「介護医療院(Ⅰ)」がもっとも多いという結果でした。
また「介護医療院(Ⅱ)」「介護老人保健施設」を含め、介護の充実を転換の方向性として考えている病院は計34.6%、医療と介護の(医療療養1と介護医療院の組み合わせ等)が 15.4%となっており、合わせて半数の病院において、介護医療院を中心に転換先を検討していると答えています。
実際のところ、どれだけの病床が介護医療院に転換するかはまだ不明ですが、いずれにしても介護療養病床を持っている病院・有床診療所は、今後6年間の猶予期間(2024年3月末)の間に、病床を閉じるか、あるいは別の機能の病床に転換するかを決めなければなりません。
国は当面の間、介護療養病床からの移行を優先するようですが、介護療養院の開設対象は医療法人だけでなく、地方公共団体や社会福祉法人などの非営利法人も含まれています。さらには今後、施設の新設による増加も見込まれ、看護師にとっては新たな職場の選択肢も増えるはずです。
「介護医療院」における看護師の役割とは
終末期看護を視野に置く
先述のように、介護療養病床に勤務する看護師にとっては、介護医療院への転換後もその人員基準に大きな違いはありません。ただ、従来の医療サービスに「生活の場」としての機能が加味される分、看護師に求められる役割も変わってきます。ひとつには、患者様の生活様式やプライバシーの尊重において、これまで以上の配慮が必要になってくるでしょう。さらには、ターミナルケアや看取りといった終末期看護を視野に置く必要もあり、最後までその人らしく生活できるよう、より一層患者様に寄り添ったケアが求められるようになります。
看護と他の専門職をつなぐことの大切さ
「看護」と「介護」の役割分担と連携は、介護保険制度が定められて以来、医療現場での大きな課題でした。新設された「介護医療院」においても、その課題はますます重要視されています。治療することを目的としたこれまでの看護業務に加えて、「福祉」の考えを元に、リハビリやバイタルチェック、日々の健康管理などを、介護士や他の専門職と協力して行う意識を持つことがとても大切です。
看護と介護、それぞれの専門職がどのように他の専門職の支援を組み込むべきかについて、時にはお互いの間に溝を生じさせかねない難しい面があるのは確かです。しかし、それぞれの専門性や知識を尊重し合うことで、お互いの役割分担や連携がスムーズになることは、ある程度の経験を積んだ看護師であれば、すでに実感しているのではないでしょうか。
看護と他の専門職をつないで、一層の看護強化を図る。それが、これからの看護師に求められる資質であり、役割と言えるでしょう。