病児保育とは、病気の子どもに適した保育や看護を行うことです。看護師が病児や病後児に対して適切に保育・看護を行うためには、一般的な医療機関での成人に対する看護知識や技術だけでは不十分です。病児保育には、子どもの発達段階や心理状態を踏まえた専門性が求められます。
目次
ますます求められる病児保育支援
核家族化の進行や女性の社会進出に伴って、低年齢から保育施設に預けられる子どもが増えています。集団保育の場合、特に入りたての子どもは様々な感染症にかかりやすいものです。しかし、親は子どもが病気にかかっても、看護のために仕事を休むことができない場合もあります。
そのような保護者に代わり、保育士や看護師が子どもの保育・看護を行う場所として、病児保育施設が用意されています。病児保育の存在は、いざという時に頼りになる国の子育て支援のひとつです。
ちなみに病児保育事業は内閣府においても重視しており、平成27年4月から本格施行された「子ども・子育て支援新制度」の中で、地域子ども・子育て支援事業のひとつとして位置づけられています。

子ども・子育て支援新制度について(内閣府子ども・子育て本部)/病児保育事業の概要/実施か所数及び延べ利用児童数(http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/pdf/setsumei.pdf)
病児保育における看護師の心構え
発達段階に合わせた遊びを促す
子どもは一日のほとんどの時間を「遊び」に費やしています。「遊び」を通じて、子どもの心と身体は日々発達を続けています。「子どもの発達」と「遊び」は非常に密接に関係していることを、まずは知っておく必要があるでしょう。病児保育に携わるスタッフはその関連性を踏まえ、子どもの発達についての知識はもちろん、発達に合わせた「遊び」を子どもに提供できる知識も備えておかなければなりません。
例えば0歳児の場合、五感がみるみる育っていく時期です。音楽や歌を聞かせ、きれいな色彩の玩具など良い刺激を与える環境を整えます。
1歳児は「自分」の思いを持ち始め、「同じ(おんなじ)」を楽しむことができるようになります。同じものを見つけたりして遊ぶ体験はとても有意義です。
2歳児になると、どんどん言葉を覚えていきます。子どもが発する言葉を大切に受け止め、話す楽しさを伝えます。
このように、子どもの発達段階を踏まえた「遊び」によって、適切な発達を促すことが重要となってきます。
病児の心理に「安心感」を与える
病気になった子どもは、辛さ、不快感、不安感など、健康で生き生きとした本来の状態とは異なった心理を抱えます。
・病気による痛み・辛さに対する耐性の弱さ
・病気からくる不安感
・病気になったことから起こる自信喪失
・病気になったのは自分が悪いという罪悪感
子どもは病気になると我慢する力が弱まり、いらいらした思いを人にぶつけがちになります。不快感や苦痛が欲求不満に対する耐性を弱くするためです。その一方で、自分に目を向けてほしい、自分に手をかけてほしいという欲求が強まります。
子どもにとっては病気に対する理解も難しいため、「このまま治らないのでは」といった不安を抱えます。「病気になった自分はダメだ」と思い、自信を失うこともあります。あるいは大人から「ちゃんと食べないからよ」「手を洗わないからよ」といった指摘を受け、「病気になったのは自分が悪かったから」という罪悪感を持ってしまう場合もあります。

病気のせいで感じる不安感を払拭することが大切
病児保育に携わる看護師は、そのような病気に起因する子どもの心に寄り添う立場に立たなければなりません。
不安を抱える子どもが安心できる環境を作った上で、適切な保育・看護を提供する必要があります。特に、病児保育施設に連れてこられた子どもにとっては、病気であること自体の心細さに加え、馴染みのない人や場所という要素も加わります。こうした不安を取り除き、子どもを安心させることができれば、病気の状態が安定したり、病気回復への気持ちを強く持ってもらうことにつながります。
病児保育に携わる看護師は、子どもの心理に「安心感を与える」ことを大前提の心がけとして接することが大切です。
病児の主な症状とその対応を理解する
病児保育施設に受け入れる子どもは、通常は事前診察を行いますが、その後も状態は変化していきます。子どもの状態や症状を理解し、その変化に応じて適切な対応ができるよう、必要ならば医師に相談することも準備して、注目すべきポイントを理解しておくことが大切です。
① 発熱
発熱は体の防御反応として、免疫が病原体と戦っているサイン。発熱が続くと食欲が低下して水分も摂らなくなりがちであることに加え、不感蒸泄も盛んになるため、「脱水」に陥りやすくなります。特に乳幼児は体温調整機能が未熟で、温度変化など環境の影響を大きく受けます。また哺乳・食事の直後、泣いた後、体をよく動かした後は、病気でなくても体温が高めになることもあります。
発熱の対策としては、クーリング、水分補給、適切な環境調整、適切な解熱剤の使用が挙げられます。
② 咳嗽
咳は気道に異物が入ってしまった時や、増えた痰を排出しようとして体が反射的に起こす反応です。これを無理に止めるのではなく、湿度が保たれた室内で楽な姿勢を取らせ、気道の異物を楽に排出できるように水分を十分に与えて対応します。場合によっては背中をさすったり、やさしく叩くタッピングをしてあげます。呼吸困難やチアノーゼが出現している場合は、救急受診が必要となりますから、しっかり観察する必要があります。
③ 下痢
乳幼児の下痢の多くは、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が原因で起こります。下痢をすることによって、体がウイルスや細菌を外に排出しますので、乳幼児には下痢止めを使わないことが多いです。
下痢の症状が出たときは、脱水対策として水分と電解質を適切に補います。その後は回復に合わせて適切な食事療法をしていくことが大切です。
④ 嘔吐
大声で泣いたとき、咳き込んだとき、食べ過ぎたときなど、病気ではなくても子どもは様々な原因で嘔吐します。乳児はゲップと一緒に吐くこともあります。
嘔吐が一度きりで、すぐに顔色が回復し元気な様子であれば、さほど心配ありません。しかし、繰り返し嘔吐したり、一度だけの嘔吐でもその後ぐったりしていたり、腹痛や頭痛を伴う場合、疾患による可能性があります。最も多い疾患は感染性胃腸炎です。まずは医師の診察が必要です。
乳幼児の薬の知識を身につける
病児に対する薬による治療法としては、「対症療法」と「原因療法」があります。
「対症療法」は、病気による発熱や咳など不快な症状を軽減するための、解熱剤や鎮咳剤を与えるものです。
「原因療法」は、例えば細菌感染症なら抗生物質など、病気の原因に対して有効な成分を与えるものです。
てんかんや喘息に代表される、アレルギー疾患などの慢性疾患の場合には、疾患のコントロールを行うため、症状の変化に合わせた長期間の投薬が行われることが多いです。こうした薬の種類や効果を知識として十分に身につけ、適切な投薬を行う必要があります。
また、病児への投薬は、成人に投薬する場合と勝手が違いますから、薬の与え方も配慮する必要があります。例えば乳児に散薬や顆粒薬を与える場合、少量の水でだんご状にし、口の中の頬や上あごの粘膜に付けてミルクを飲ませます。幼児へは少量の水で溶いてスプーンで飲ませます。
病児保育のリスクマネジメント
病児保育を実践するにあたり、一般的な疾患の対処法だけでなく、乳幼児特有の注意点を理解しておかなければなりません。たとえば食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、気管支喘息といったアレルギー疾患は、多くの子どもが症状を抱えています。特に食物アレルギーのアナフィラキシーは、生命に関わる場合もあるため十分な注意が必要です。事前に必ずアレルギーの有無や食物除去の状況を確認し、食事やおやつの際にアレルギーの原因となる食べ物は提供しないようチェック体制を整えます。
ほかにも、熱性けいれんや乳幼児突然死症候群(SIDS)といった危険な症状や疾患にかかる可能性も考慮し、その予防と対策を講じておく必要があります。いざという時の緊急対応の体制をどうするか、医療機関と連携して事前に決めておくことがとても大切です。
また、特に複数の病児に対応する病児保育施設においては、感染症対策も重要な課題です。
子どものかかりやすい主な感染症として、以下が上げられます。
① インフルエンザ
② ノロウイルス感染症
③ RSウイルス感染症
④ 水痘(水ぼうそう)
⑤ 麻疹(はしか)
⑥ 風疹
それぞれに対応が異なるため、事前に母子健康手帳の予防接種の記録ページから転記した予防接種歴を提出してもらい、把握しておきましょう。病児は感染症にかかっている子どもである場合も多いため、それぞれの状態に対応した適切な看護を行いながら、施設内の他の子どもに感染を拡げない対策が必要となります。感染症ごとの感染経路を理解した上で、手洗いやマスク着用、嘔吐物の処理といった基本的な対策を徹底します。
当然、施設に従事する看護師自身が感染源にならないということにも、十分に心がけます。そのために、看護師を含む保育・看護スタッフにも予防接種が必要です。
病児保育士の資格
病児保育を実践する保育士や看護師のことを、一般的に「病児保育士」と呼びますが、そういう名前の国家資格はありません。しかし、全国病児保育協議会が認定する資格として「認定病児保育専門士」、日本育児保育協会が認定する資格として「認定病児保育スペシャリスト」があります。これらの資格を取得することで、より専門的な病児保育の知識を身に着けている者として認められることになります。
キャリアアップを考えている看護師の方は、取得を目指してみてはいかがでしょうか。