コーチングスキルが看護師の後輩育成に役立つ。
その必要性とは 2017.10.11

人材を採用しても離職者が多く定着しないことは、看護の現場を含めた社会全体の課題です。医療スタッフや患者さん方との人間関係の中にあって、後輩育成というミッションは悩みの種。

今回は、コミュニケーションを通じて自分自身や周囲の人々を成長させる、自己啓発と指導法のエッセンスが詰まったコーチングについて考えてみましょう。

後輩指導という看護師の悩み

多くの病院で、看護師を育成・指導するための教育制度としてプリセプター制度が採用されています。
ある程度の看護経験を積んだ3~4年目の先輩看護師がプリセプターとなって、新人に対してマンツーマンで指導を担当することが多いですが、後輩看護師の指導方法に頭を悩ませるプリセプターも少なくないようです。新人の状況を最も理解しやすい体制というメリットがある反面、一対一では必ずしもうまく関係が築けないケースもあり、指導役を担う先輩看護師にも適切なサポートがないとひとりで問題を抱えることになったり、自信をなくしてしまうこともあります。

こうしたことから、最近では病院のスタッフ全員が積極的に自己能力の向上と新人育成に意識を向けるよう促す、セルフマネジメントやコーチングの手法を取り入れるケースが増えてきました。医療の現場はさながら野球やサッカーのようなチームプレイです。それぞれのポジションに必要な技能を身につけた人を配置し、個人の能力と全体のチームワークを円滑にすることでより良い職場環境の形成を皆で実現させようという場合、コーチングは最適な手法です。

コーチングは個人の力や多様性を引き出す

コーチングとは人材育成・能力開発手法のひとつで、設定した目標に合った的確な指導により、人の成長を支援・促進するコミュニケーション技法です。近年、主にスポーツの世界やビジネス業界で採用されるようになってきています。

コーチから受ける指導には、課題に取り組む意義の把握や問題意識の持ち方、障壁に立ち向かう際のモチベーションを維持させ、目標を達成できるまでに必要なやる気を引き出すことなどが含まれ、心や体の成長を促します。

コーチ(coach)とは本来『馬車』のことを指し、「人を目的地へ運ぶ乗り物」という役割から転じて、指導者を表す意味で使われるようになりました。どこに行くべきか分からなければ、馬車は迷走するばかり。大切なのは、目的地をどこに設定するかということです。苦情を減らす、離職者が出ないようにするなど、具体的な目的を掲げてトライするといっそう効果的です。

スポーツなど幅広い分野に広まりつつあるコーチングのイメージ画像

スポーツなど幅広い分野に広まりつつあるコーチング

メディカルコーチングが看護師のチーム力を強くする

チーム医療における多職種連携のシステム構築が求められる現在、コーチングの手法とその効果が看護の分野でも注目されています。医療現場におけるコーチングは通称メディカルコーチングと呼ばれます。看護の世界にメディカルコーチングを広め、コーチングのできるリーダー看護師の育成を目指し、一般社団法人日本看護コーチ協会が2014年に設立されました。

看護コーチの学習には院内研修や公開講座、無料体験オリエンテーションなどの形式があり、コーチ型コミュニケーション方法を学ぶプログラム『看護コーチトレーニング(NCT)』では、6日間をかけて以下のようなスキルを身につけます。

日数 カリキュラム
1日目 オリエンテーション
看護コーチの基礎
ナイチンゲールとコーチング
看護コーチのあり方
2日目 アクティブリスニング(聴く力)
傾聴する(スキル1)
コーチングカンバセーション
看護コーチのファウンデーション
3日目 探求力
質問力(スキル2)
パワフルクエスチョン
コーチングエクササイズ
4日目 つながる力
信頼関係を築く
承認力(スキル3)
共感力(スキル4)
5日目 伝える力
フィードバックする(スキル5)
リクエストする(スキル6)
アサーティブネス
6日目 実践コーチング
GROWモデル
5分間コーチング
面談、人材育成、モチベーションアップ、クレーム対応

NCTの受講料は、会員168,000円/非会員198,000円。後輩指導や組織改革を担うキャリア看護師向けの集中プログラムです。詳しくは協会サイトをご確認ください。

看護師のためのコーチング研修

職場が部署や組織全体で業務改善に取り組む必要性にかられる前に、まずは自分の意識、内面から変えてみるというのもいいでしょう。一般財団法人日本総合研究所(日総研)などのシンクタンクでも、看護師のためのコーチングセミナーを全国で開催しています。

看護師の経験を活かして医療・看護・介護の現場に最適なコーチング指導を行っている佐久間由香氏のセミナーでは、アドラー心理学の基礎を学びながら実践に役立つ体験型のワークショップが行われています。セミナーに参加してみることで、昨日まで悩んでいたこと、困っていたことをひとつずつ解決していく手応えを感じるはずです。チーム医療がうまくいき、自分が思い描いていたように、患者さんに寄り添った看護を行えるようになることが目的です。

佐久間由香氏によるセミナーカリキュラムの例
【即実践】部下指導にも最適!相手の心を引き出す!現場ですぐに使えるコミュニケーション術
【アドラー心理学】対人関係の基礎を知る(幸せの3条件、共同体感覚、勇気づけ、課題の分離等について)
【自分軸探し】看護師として人間力を高める、本当の自分とは?自分らしく仕事を楽しもう!
【チーム力をあげる】より良い人間関係と環境作りの秘訣とは?
【本当はどうしたい?心の声】潜在意識から描くビジョンづくり
【ベイビーステップの作り方】小さな行動計画を!

LALANURSEの研修会情報でもコーチングに関するセミナーが掲載されています。チェックしてみてください。

医療業界で高まるコーチングの必要性、病院規模での導入も

組織の活性化を実現するためには、組織全体のヴィジョンと数値目標を明確に設定した上で、先に挙げた実践体験型のワークを取り入れ、仮説と検証を重ねます。また、コーチングはスタッフのみならず、患者に対しても有効です。慢性疾患や難病を抱えた方々に対して、治療に前向きになれる支援ツールとなります。

地域の中核病院として812の総病床数と1800名以上の職員(平成29年4月1日時点)を抱える名古屋第二赤十字病院では、2012年にコーチングのトレーニングプログラムを導入しました。救急医療、高度医療、災害救護、がん診療、周産期医療、地域医療の連携を図るのが目的です。同院が採用したのは、ニューヨークや上海など、世界6か所に拠点を持つグローバルコーチングファームとして知られるコーチ・エィ社(東京・千代田区)が開発した医療スタッフ向けのプログラム、MCTP(メディカル・コーチ・トレーニング・プログラム)です。

MCTPはコーチ・エィ社による一般企業でのコーチング実績をもとに、医療業界に特化した形に再構成したコーチングプログラムです。コーチ資格を有する臨床現場の医療従事者のチームによってプログラムが作成されているため、医療現場の実態とニーズに即しており、医療従事者のリーダーシップ開発やチーム医療の向上につながっていくことが期待されています。

まとめ

どんなベテラン看護師でも、「仕事でまわりや後輩たちがついてきてくれるようにコミュニケーションを取りたい」と思うことでしょう。コーチングの手法を学ぶ最大のメリットは、人の良いところを発見して人間関係を円滑にすることにあります。その先に目標やゴールを設定して皆で取り組めば、目標の大小に関わらず、やればやるだけの手応えを実感できます。

また、職場の協力体制が整えば心にゆとりが生まれて、患者さんとも信頼関係をスムーズに築けるようになるでしょう。日々の仕事のなかで、自分の良い面を再発見すること、自分自身をより理解して自信を持つことにもつながります。後輩の指導をうまくこなしたい、職場の労働環境改善に着手したいという場合はもちろん、もっと自分を変えたい、成長したいと思っている人にもコーチングは最適です。

病院規模でのコーチング導入も始まっている

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