前回はさかいりはグループ代表取締役・阪井春枝さん、さかいリハ訪問看護ステーションの訪問看護師・小川さんと工藤さんのお三方を交えて、職場の雰囲気について伺いました。今回は引き続き、小川さんと工藤さんのお二人から話を伺います。訪問看護に携わってから歴の長いベテランのお二人。これまでどのようなキャリアを経て訪問看護に進んだのか? さかいりはグループで働くことの魅力とは? 長い看護師人生に裏打ちされた、それぞれが胸に秘める看護への想いがありました。
写真左から:さかいリハ訪問看護ステーション船橋ステーション管理者・小川さん、さかいリハ訪問看護ステーション東京ステーション・工藤さん
(第3回/全3回)
目次
子育てを終えてからの挑戦:小川さん
— お二人のご経歴を教えてください。
小川さん(以下、敬称略):実は私、子育てが終わった37歳になってから看護師の免許を取りました。病院勤務を経て整形外科を中心に勤めた後、リハビリテーション科に入り、そこで看護師長を務めさせていただきました。いろいろ経験していく過程で在宅看護に興味が湧いてきて、幸いなことにご縁もあったので、そこで訪問看護の分野に飛び込んできた…ということです。
他の看護師に比べ、遅い時点からのキャリアスタートとなった小川さん。そこにはどのようなきっかけがあったのでしょうか?
小川:看護師になる前は病院で事務をやっていたのですが、それよりさらに前、もともとは栄養士の資格を取って勤めようと思っていました。ですがちょっと自分には合わないかなと、病院の医療事務として勤め始めたんですね。そして医療事務の業務をやっていく中で興味が湧いて、当時の勤務先の総師長に勧められたこともあり、看護学校に入学しました。

看護学生時代は周囲が娘さんと同じ年頃の人たちばかりでついていくのが大変だったと語る小川さん
介護保険制度が生まれる以前からのベテラン:工藤さん
工藤さん(以下、敬称略):私は国立病院の看護学校を卒業して、産後休暇の4ヶ月以外はずっと看護の仕事をして、ほぼ40年になります。その中でも訪問看護は、介護保険制度が始まる以前から、外来経由の訪問看護として関わるようになりました。看護師としての40年間の中で、ほぼ訪問看護しか知らないというような状況ですね(笑)。
工藤さんはもともと関東出身ではなく、福岡市内の病院に勤めていた頃に訪問看護部門の立ち上げに携わり、そちらを退職してから関東に出てきたそう。
工藤:訪問看護以前のキャリアは、内科系の病院、脳血管系と消化器系です。それから移った民間病院が訪問看護ステーションを立ち上げられたので、そこからはずっと訪問看護に携わってやってきたという感じです。

訪問看護の歴史の生き証人とも呼べる経歴を持つ工藤さん
「家に帰りたい」その気持ちに応えたい
— お二人はどのようなきっかけで訪問看護に興味をもったのでしょうか?
工藤:福岡で勤めていた頃、お家に帰りたいというご高齢の入院患者さんにお会いして、「この方はなぜ帰れないのだろうか?」と考えたんですね。そこでご家族の事情の他にも、医療機器――当時はたぶん酸素吸入とバルーンカテーテルくらいだったと思うんですけれど、そういうものをつけているから帰れないんだと思い至って。だったらこれが家にあればいいし、それを取り換える人、つまり看護師が家に行ければ帰れるんじゃないか? と気づいたんです。
介護保険制度が始まる以前、「医療は病院で受けるもの」という認識がごく普通だった時代に、工藤さんはそのシステムに疑問を覚えました。
工藤:まだ私が20代前半の頃で、若さゆえの考えだったんですけれど。そうしたら東京の高田馬場でそれを始められている方がいらっしゃると知って、そこからすごく興味を持つようになって。民間病院を立ち上げた先生にお声かけていただいたのでそこに移って、訪問看護の道に入らせていただきました。
小川:私も工藤さんと同じで最初は、お家に帰りたいという患者さんの思いに応えたいという想いでした。でも、在宅看護に入ったら今度は、病院でもっとやれることがあったんじゃないか、こうすればもっとお家で過ごしやすくなったんじゃないかと感じて、病院に戻ってもう一度やってみたいという気持ちになった時期もありましたね。

人生の一部分に携わる在宅医療
— 病院医療と在宅医療では、どのような違いがありますか?
工藤:病院は、診療科などの枠組みのルールに従ってここを治したいという思いで患者さんが来院します。だからそのルールが示す意向が強いのかなと思うんですけれども、一方で在宅医療というのは、利用者さんのフィールドで、単なる治療に留まらない、ご自身の状態とどう付き合っていくかという希望を叶えることや、そのための生活リズムを作ることを重視しているので、その人らしさというのがすごく出ると思うんです。そこに看護師がどれだけ寄り添っていけるかというところは、訪問看護の醍醐味の一つです。
小川:訪問看護の利用者さんとそのご家族がどれだけ頑張っても、やっぱり具合が悪くなっていくときはだんだん落ちていきます。そうなったとき、事業者と利用者さん・ご家族の間で希望する条件のすり合わせがうまくいかず、在宅で見続けるのが厳しくなって最終的に病院や施設を選ばれる方が出てきてしまうのはすごく残念ですね。
慣れない病院のベッドではなく、住み慣れた我が家で治療を続けたい……利用者の願いの一方で、身体的・経済的な障壁のために、希望を叶えられないことがある実情もあります。
工藤:訪問看護をしていると、病院にいる患者さんたちよりもいい顔をしていらっしゃるなと思うんです。やっぱり家のほうがいい顔になれるんだと思えるときが、訪問看護がいいなと感じるときですね。
小川:訪問看護の仕事は利用者さんの希望が第一なので、その希望を叶えてあげられたときは嬉しいです。たとえば、古い日本家屋にお住まいで、段差が30センチくらいある框(かまち)を乗り越えて浴槽のお湯に浸かりたいというご希望がありました。このときはどうやったらそこまで行けるかをPTも含めスタッフみんなで考えて実行して、頑張ってやっと入れてあげられたということがあって、すごく良い経験でした。
工藤:お家の中に上がって、その人の生活、生き様や最期の瞬間、それらに全くの他人が関わることができる仕事はそう多くはないと思うんです。違った見方で言えば、その人の人生の一部分を見せていただける。看護職としてそこに携われることを、私は人間としてすごくありがたいことだと思っていて。
学生さんと話す機会などがあれば、在宅医療・看護は、その人を一生懸命見て、その人やその家族を支えていくんだよということを、知ってほしいなと思って伝えています。

若い看護師にも、訪問看護でしかできない経験をしてもらいたいと語るお二人
人との相性という悩み
— 訪問看護の仕事の中で、苦労したり悩んだりしたことはあったんでしょうか。
工藤:人との相性という悩みはあります。看護師にもそれぞれのキャパシティがありますので、やっぱり一人ひとり違うところは出てくる。一緒に働くスタッフが利用者さんにうまく寄り添っていけない場合は、こうやってみて、ああやってみて、気持ちをこういうふうに変えてみて、とアドバイスをすることがあります。相性が悪いときに、駒のように人を替えていくことも一つの手ではありますけれど、問題を乗り越えていかないと本人も成長しないと思いますし。こういうクレームがあるからやり方を変えてみようって、スタッフみんなで支えていくこともしてきました。
小川:利用者さんとスタッフ、ステーションの相性は難しい問題です。他のステーションが合わなくてさかいリハに回ってこられた利用者さんもいますし、逆にさかいリハが合わなくて他のステーションに移られる方も、残念ながらいないわけではないですね。
工藤:私たちのことをご理解いただけない方もいらっしゃると思いますし、私が二の足を踏んでいるときには、先方も少し距離を置いていらっしゃるなと感じることもあります。でもそれはそれで、距離は徐々に詰めていけばいいのかなと。平行線になってしまうこともありますけれど、そういう場合は、ご本人が希望する生活が叶うようにアプローチしていけばいいと思うんです。人との接し方はそれぞれ違うでしょうから……その人を自分の中に受け止めてやっていくというのは、すごく苦手なこともありますけど、でも私はけっこう入り込んでしまうタイプなので。

それでも人を嫌いになることはありません、と語る工藤さん
さかいリハ訪問看護ステーションの業務について
— さかいリハ訪問看護ステーションでの仕事の流れや、助かっている制度などを教えてください。
小川:朝は8時半が始業です。みんなで5分くらいの朝のカンファレンスをして、すぐにみんな訪問に出て行きますね。看護ですと1日で3、4件。リハビリですと4、5件ほど回って、夕方、17時前には事務所に戻ってきます。17時15分頃に夕方のカンファレンスをして、17時半にはほぼ残業なしでみんな帰ります。
ステーションの管理者も務める小川さんの場合、訪問件数は他のスタッフより少なめに、代わりに事務所にいる時間を長くしているとのこと。そうすることでスタッフの急な休みに対応したり、外部のケアマネージャーとの連携などに時間を使える他、スタッフの状況がまとめて把握できるという管理効率の向上にもつなげています。
工藤:訪問看護でよくある24時間体制も実施していないですし、時短や指定休といった制度のお陰で、働きやすいんじゃないかなと他のスタッフを見ていても感じます。独自の育児支援制度も整備されてきていますから、子育てのために離職された方も復職しやすいかなと。病棟勤務だとどうしても夜勤があったり、他の訪問看護ステーションでは24時間連絡体制の携帯電話当番があったりして常勤が難しい、という方でもうちでは常勤として働けることもあると思います。
小川:仕事とプライベートがきちんと分けられるので、精神的にとても楽ですね。
工藤:私はもともと教育支援制度に惹かれて求人に応募したんですが、まだまだ自分自身が求めるレベルへの到達はできていません。外部研修に行かせてもらえたり、社内研修でさかいりはグループ各地の事業所と横のつながりができたりしますから、勉強したい、スキルアップしたいという若い人にはとてもいいと思います。
私事ですが、この歳になってからパソコンの使い方を覚えなきゃいけない苦労はありますけれど、他ではこういうチャンスはないなと。小川さんが言ったように、自分の娘と同じくらいの年齢のスタッフたちと仕事ができるので、最近の若い子たちの情勢が見えたり、自分もフレッシュな気持ちにさせてもらえたりして、楽しくもありですね(笑)。

多拠点展開が可能にする、ステーションとしての強み
— 研修はどのような形で行われるのでしょうか?
工藤:社内研修では講師の方がお見えになることもありますし、いずれかの事業所が年間計画についての発表をする場面もあります。一部の拠点のみで実施するような研修でも全社的に通知して、希望があれば他の事業所からも参加して一緒に講義を受けられたりします。
小川:事業所自体は各地に散らばって点在していますけれど、さかいりはグループという同じ組織の一員として横のつながりで連携しています。研修以外にも、ご利用者さまの事例などを事業所間の共有システムを用いて全社で確認できるようになっています。知識の蓄積は、各地に複数の事業所を展開しているからできる強みですね。
工藤:小児の利用者さんが少ない事業所のスタッフが、逆に小児の利用者さんが多い事業所へ研修に行けるということもあるので、各地に拠点があるからできることだと思います。
小川:船橋では小児の利用者さんが多くいらっしゃいますね。難病患者さんも多くいらっしゃいます。
工藤:私は東京の勤務ですが、やっぱり東京は居宅の数が多いし、ステーションの数もすごく多いです。当社と同じようにリハビリを得意とするところもありますから、その中で選んでいただくためにちゃんとやっていかなければならない。
『24時間体制ではない』ということをドクターの先生方やケアマネージャーさんからご指摘いただくこともありますが、それでもさかいリハに、と言っていただけるドクターやケアマネさん、利用者さんを増やしていきたいと思いますね。
小川:事業所が複数ありますから、事業所間での異動が全くないわけではありません。ただ家庭の事情で転勤が難しいスタッフも多くいますので、そこは考慮されています。

リハビリ専門デイサービスWHIZ倶楽部も展開しているさかいりはグループ。リハビリのノウハウは全事業を通じて蓄積・洗練されていく
これからの展望 – 次世代の育成
— 最後になりますが、ご自身のこれからの展望や、今後訪問看護に挑戦する看護師の方たちに伝えたいことを教えてください。
工藤:今いる利用者さんとうちのステーションが一緒にやっていけているということは、非常に馬が合っているという……(笑)でも、それは決して簡単なことではないです。特に、病院と違って利用者さんの家に上がることだから。気持ちだけじゃなく、技量も関係してくる。もちろん想いは大切にしたいんですけれども。これから入ってくる若い人たちにそういうことをフォローして、育てる側に回らないといけない年代になったので、若いスタッフが、訪問看護して良かったと思えるように示していきたいと思います。私もまだまだ育ちたいと思うんですけれど。
小川:日々いろんなことが起きますし、法制度もどんどん変わっていきますから、そういうことに対応しつつ、若いスタッフを支援していこうと思っています。
工藤:訪問看護師はなかなか増えません。それでも、病棟勤務を経て訪問看護をやってみたくて入ってきた人の話だと、『患者さん一人に1時間前後のまとまった時間をかけてみっちり関わることができる、それはすごいことだ』と言っていました。そういう感激を持って仕事をしてくれるというのは、すごく嬉しいなと思うんです。
小川:『訪問看護は敷居が高い、経験を積んでなんでもできるようになってからでないと不安だ』と一歩踏み出せずにいる看護師さんの声を聞いたことがあるんですけれど、興味を持ったらまず来ていただきたいなと思いますね。
工藤:携帯を持ち歩かないといけないことはご存知の方も多いですけれど、それでも当社のように昼間の対応だけ行っているところもあります。だからといって、たとえばターミナルケアができないかと言うと、できないわけでもない。見学もできますので、おいでになられて中の様子を見てみるなり、一緒に働いてくださるなりしていただけたらいいですね。
