家族看護における看護師の役割③ ~高齢者介護を行う家族への看護~

家族看護とは、「家族を看護の対象とし、家族が本来有する機能と家族の健康に関するケア機能を高める援助を行うこと」と定義されています。家族看護学では、家族に生ずる健康問題やそれに関連した要因へ看護援助を行うにあたり、家族看護の理論を活用して実証的な研究を行っています。
急速な高齢化が進行している昨今、家族内で高齢者の介護に関わっている家族をいかに支えるかということが家族看護の大きな課題となっています。特に最近では、高齢者の介護に直面する次世代の少子化や晩婚化などの社会問題も相まって、家族による高齢者介護の負担も大きくなり、家族看護の需要が高まっています。三本立てでお送りしてきた最終第三段の今回は、そのような状況の中で、看護師が高齢者介護を行う家族に対してどう接していくべきかを考えながら、その役割をご紹介します。

高齢者介護を行っている家族の環境を把握する

家族看護する者は、まず家族が介護によってどの様な影響を受けているか評価をします。それには介護を受ける高齢者がどのような状態かを把握することから始めます。
それらの情報が介護者や家族全体にどう関わっているかという視点からアセスメントしていきます。

家族の構造的側面をアセスメントするには、以下のような要素の把握から始めます。

1.構造的側面の把握

  • 家族構成(続柄、年齢、同居or別居、居住地)
  • 発達課題(育児、生きがいなど)
  • 介護がない場合の生活時間
  • 体力・健康状態
  • 職業・家業
  • 家屋構造(浴室、トイレ、段差の有無、手すり、居室の状況など)
  • 地域環境(交通、買物の便、近隣など)

こうした構造的側面からのアセスメントを行うと同時に、機能的側面からも家族を見ていきます。しかし、機能的側面はなかなか目に見えず、普段の家族の状況を十分に知っていないと把握できないことが多いです。家族に援助を行いながら徐々に把握していきましょう。

2.機能的側面の把握

  • 家族間の情緒的関係、コミュニケーション、相互理解はどうか?
  • 家族の価値観(特に介護に対する考え方は?)
  • 家事などの役割分担(協力体制や柔軟性)はどうなっているか?
  • リーダーシップを発揮する人物など、勢力構造はどうなっているか?
  • 家族の社会性はどの程度か?(外部資源の活用能力や、近隣との交流)

家族の対応状況と適応状況を評価する

介護によって家族が受けている影響や対応能力のアセスメントを行ったら、次は実際に家族がどう介護に対応しているか、介護生活に適応できているかどうかを査定します。

まず、介護という課題に直面する家族は、これまでの生活からの変化を余儀なくされます。
例えば、これまで元気だった夫が脳梗塞で療養生活に入ると、本人の生活だけでなく妻は家事以外の介護という課題を新たに抱えることになります。近くに住んでいた息子夫婦も、頻繁に訪問して布団干しや買物を手伝うこともあるでしょう。このように、家族は介護により新たな役割を獲得しなければなりません。

こうして介護を始めることになった家族は、まず、生活の変化や新たな役割を受け入れなければなりません。特に認知症や身体的な障碍を伴う場合、家族はそれまでの頼りがいのある夫や親の変わってしまった姿を受け入れるというプロセスを経験します。
看護者はこうした変化への受容がどの程度できているか把握します。
例えば、今まで育ててもらった親を、今度は自分が介護する立場となるにあたっては、これまで支えられていた立場から支える立場へ関係を逆転させることを理解し、介護をすることを受け入れることが求められます。このような認知的対処行動や情緒的対処行動ができているか、どう対応しているかを評価します。
具体的な対応状況を知るために、食生活や睡眠などの日常生活はどうか、息抜きのための工夫はしているか、仕事の時間との調整ができているかを、一日の流れに沿って聞いてみることが必要です。また、介護に伴う仕事を誰がどのように行っているか、役割分担の状況を詳しく聞いて確かめます。

適応状況を把握するためには、まず、介護に関わっている一人ひとりについて、新しい介護役割のために、疲労感や腰痛などの身体的な問題、抑うつや不安などの精神的な問題が発生していないかのアセスメントを行います。
また、家族の獲得した介護に関する知識や理解がどの程度であるかを知り、介護への意欲やその取り組み方などから、個々の適応状態を把握します。
さらに、介護によって家族内の情緒的関係やコミュニケーション、相互理解といった関係がどのように変化したか、適応状況を把握します。

高齢者の介護に直面する次世代の少子化や晩婚化などの社会問題も相まって、家族による高齢者介護の負担も大きくなり、家族看護の需要が高まっています。

介護を行う家族への援助

高齢者介護という課題を抱える家族へのアセスメントに基づき、看護計画を立てて家族を援助していきます。

1.家族の健康の確保

家族看護では、高齢者の健康回復への援助はもちろん、介護者ほか家族の健康の確保にも配慮します。介護を始めるにあたり、家族全体の生活変化や役割の変化による精神的ストレスが増え、家族の健康を阻害することが多いためです。
もちろん、介護保険制度などを活用し、できるだけ外部資源に頼ることで負担の軽減になりますが、日常的な介助や最終的な判断は家族に任されることが多いため、在宅介護は家族の健康を損なうことのないように配慮しなければなりません。
このような状況の中、家族が介護という重い課題に対応していくために、一人ひとりの健康に対する自覚を促し、無理のない介護生活を設計してあげることが重要です。例えば、介護者に高血圧の兆候があれば、訪問介護の場面は介護者の血圧測定を行いながら、生活上の配慮など相談に応じます。

2.家族内介護協力の促進

介護は長期に渡ることが多いため、家族全員がなんらかの方法で介護のサポートを行う協力体制が重要となります。それは介護を主に行う人への負担軽減や精神的支えになるのです。例えば、別居している子ども世帯が週末に訪問して簡単な家事作業や買い出しを手伝うことや、介護者の外出がままならない状況で介護保険制度など公的機関の手続きを代わって行うことなどがあります。
このように、家族内の協力体制を高めるため、その家族に実行可能な体制を一緒に考え、実行できていることを肯定的に評価することで、家族のセルフケア機能を高めていきます。

3.家族内コミュニケーションの促進

介護という課題が出てくると、家族はまずどのように対処するのか方針を決めるために話し合わなければなりません。そこで介護の役割分担も決まっていきます。
これらのコミュニケーションが適切にできているかによって、介護の質が決まってきます。
こうした介護をきっかけに、これまで以上にコミュニケーションの機会が増え、相互理解が高まるということもあるでしょう。
このような家族のセルフケア機能を高めるためには、看護者は家族内コミュニケーションを促進するような働きかけを行います。
例えば、介護の方針を決めるときには「ご家族でよく話し合ってみて、その結果をよろしかったら教えてください」などと提案するのです。
ときには、家族の一人からほかの家族に助言してほしいと頼まれることもありますが、なるべく家族が自分自身で表現できるように促しましょう。その表現の仕方を一緒に考えることも必要です。

4.介護の意義の共有

介護者にとって負担が大きく、先の見通しが立ちにくい高齢者介護は、「自分だけがなぜこのような世話を押し付けられるのか」といった被害者意識や孤独感を抱きやすいでしょう。
家族が介護に関わることの意義は、家族内のコミュニケーションが増えること、役割分担の柔軟性が増すことなど、家族のセルフケア機能の向上にあります。
しかし、家族自身はこういった意義になかなか気づかないことが多いです。そこで、看護者がそういった効果を自覚できるように示唆することが重要です。
これは、家族看護での様々な援助を行うことを通して、常に意識し、ことあるごとに助言できるようにしておきましょう。

5.家族の社会性の向上

家族が介護を在宅で行う場合、それを支える介護保険制度やその他の社会資源を活用することが不可欠であることは広く知られるようになってきました。家族の介護に対する情報収集能力や外部資源の活用能力といった家族機能は確実に高まってきています。
しかし、地域によってはまだそういった活用に理解が進んでいないところもあります。
また、介護は隣近所の住民や、地域のボランティア組織などの援助を受けたほうが効果的になることが多いです。
そのため家族は、介護を通して社会性を身につけることになります。
看護者はこうした家族の社会性向上のために、介護の支援制度や社会資源の紹介、具体的な家族の対処方法の提案を行います。ときには自ら地域の人々に協力を呼びかけることも必要です。

6.高齢者虐待の予防

長期に渡る介護を行うことを強いられる家族の中には、前向きに介護に取り組もうとする人ばかりではないでしょう。なかなか介護への意欲が湧かず、むしろ高齢者に対する虐待といえるような行為に及ぶ家族もいます。特に、長期に渡り障碍をもたらす疾患や認知症を持つ高齢者を介護する家族の精神的な負担は大きく、そのような虐待に繋がるパターンが見られます。
看護者は介護による家族へのマイナス面にも目を背けず、介護がきっかけとなって家族関係が破綻しないよう援助することが求められます。
介護を受ける人と介護する人の両者の苦しみ、そこで起こっている関係性の変化を把握し、どちらの悩みにも寄り添っていくことが重要です。
時には外部のサービスを利用することで心理的な緊張を緩和し、家族内で新たな関係性を築けるような援助をすることが、結果的に家族関係の深刻化や虐待の防止に繋がるのです。

参考図書:『家族看護学 理論と実践』第4版 鈴木和子・渡辺裕子著