フットケアとは足の健康を保つためのケアのことで、美容やスポーツなどの分野でも用いられますが、メディカルフットケアとは特に医療的な視点から足の病変に対して行うケアのことを言います。
2008年にはフットケアが糖尿病合併症管理料として診療報酬に加算されるようになったことを受け、専門外来としてフットケア外来を設置する病院も増加しています。診療報酬として算定するには医師または専任の常勤看護師が指導を行う必要があるため、フットケアスキルを身につけることは看護師が専門的な働き方を広げる方法の一つとして見逃せません。
散歩やウォーキングをする人の数はこの20年間で2倍以上に増加したと言われており、昨今の健康意識の高まりの中で『足を使う』ことは欠かせない要素になっています。歩行はQOL向上の役に立ち、満足に歩行するためには足のコンディショニングが重要になります。
目次
メディカルフットケアが必要になった背景
足の病変には、糖尿病患者や透析患者にみられる下肢循環障害や、高齢化による身体機能の低下といった原因があります。糖尿病合併症として神経障害があると神経の働きが低下して感覚が鈍くなるため、靴ずれや暖房器具による低温やけどといった小さな外傷に気付きにくくなります。また糖尿病性網膜症や高齢化による視力低下があると、視覚的にも気付きにくくなります。そして血行不良から来る回復力や抵抗力の低下によって、結果としてそこから足病が重症化しやすくなります。
日本国内で糖尿病の可能性が疑われる人の数は、年によって増減を繰り返しているものの20年前より増加しており、その総数は2000万人に上ります。さらにそこへ高齢者人口の増加も複合することによる、足病患者の増加が危惧されています。
そこで足病を早期発見して治療に取り組み、重症化を未然に防ぐための手段として、メディカルフットケアに注目が集まっています。

『「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数の年次推移(20 歳以上、男女計)(平成9年、14 年、19 年、24 年、28 年)』(出典:平成28年国民健康・栄養調査結果の概要(厚生労働省)(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html))
メディカルフットケアがもたらす効果
高齢者が寝たきりになる大きな要因として『転倒による骨折』が挙げられ、転倒は足の病変による『歩きにくさ』にも原因があります。
先行研究では適切なメディカルフットケアを一定期間継続して施すことで、偏平足におけるアーチ高の上昇が認められたり、重心動揺性が低下するなど、足部機能向上に繋がり立位保持、歩容の安定から転倒を予防することができるとされています。
もし糖尿病による足病変が深刻化すると、最悪の場合は足を切断することになりますが、下肢を切断した患者は5年後の生存率が低くなることもわかっています。このような事態を未然に防ぐためにも、早期からのメディカルフットケアが必要です。
メディカルフットケアは足の健康を保つことで、心身の健康を損なう要因を予防することに大きな効果が期待できます。

足の健康を保つことが心と体の健康につながる
メディカルフットケアの施術例
検査を元に、胼胝(たこ)や鶏眼(魚の目)の治療、肥厚爪や陥入爪の爪切りなどの処置、日常生活でのケア方法の指導などを行います。施設によって施術内容は異なりますが、以下のようなことが例として挙げられます。
施術 | 内容 |
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検査 | 問診・視診・触診 |
ドップラー | |
モノフィラメント | |
サーモグラフィー | |
処置 | 消毒・軟膏塗布 |
陥入爪の部分切除 | |
デブリードメント | |
爪切りや爪やすりを用いた爪切り | |
ニッパーやペンチを用いた爪切り | |
スピール膏の使用 | |
メスやコーンカッターを用いた胼胝・鶏眼の処置 | |
パットやクッションの使用 | |
ケア | 靴の選び方 |
足浴の指導・実施 | |
マッサージの指導・実施 | |
足部機能向上のための運動指導 |
フットケアナースの活躍場所や資格
看護師がメディカルフットケアに取り組むにあたって、絶対に必要な資格は存在しません。参考として、糖尿病合併症管理料の診療報酬の算定要件には『専任の常勤看護師』が指導することが含まれていますが、専任の常勤看護師の要件は「糖尿病足病変の看護に従事した経験を5年以上有し、かつ、糖尿病足病変に係る適切な研修を修了した者」とされています。
この『適切な研修』の要件を満たす例について、厚生労働省は以下のように回答しています。
要件を満たす『適切な研修』の例 ※ |
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日本看護協会 認定看護師教育課程「糖尿病看護」の研修 |
日本看護協会 認定看護師教育課程「皮膚・排泄ケア」の研修 |
日本看護協会が認定している看護系大学院の「慢性疾患看護」の専門看護師教育課程 |
社会保険看護研修センター「糖尿病ケア研修」 |
日本糖尿病教育・看護学会「糖尿病重症化予防(フットケア)研修会」 |
※出典:疑義解釈資料の送付について(その3)(厚生労働省保険局医療課)
上記以外にも、各都道府県の看護協会が独自に実施するフットケア研修でも要件を満たしている例があります。ただし、糖尿病合併症管理料の診療報酬に算定されるのは糖尿病足病変に起因して通院している患者への指導に限り、その他の症状や在宅療養の患者は算定対象となりません。
フットケアナースの活躍場所
メディカルフットケアの知識を持つ看護師が活躍できる場所として、近年新設が相次いでいるフットケア専門外来が挙げられます。糖尿病で入院していた患者が退院後に治療の一環として通院することが多くなりますので、必然的に診療報酬として扱われる機会も増えます。そのためフットケア外来で勤めるには、前述した算定要件を満たす経験を積んでいることや、適切な研修を受けていることが求められるでしょう。
メディカルフットケアは在宅医療や介護福祉の現場でもその重要性や存在感が増しています。これらの場合は診療報酬外となりますが、メディカルフットケアを施す者としての知識や技量は当然求められますので、フットケアスキルを証明する方法として資格を取得することは有効です。
メディカルフットケアの資格
フットケアの民間資格は複数ありますが、美容やスポーツといった分野が認定母体となる資格もあるため、注意が必要です。それらはメディカルフットケアと一部で共通する要素はあるものの医療的な目的とは異なるため、医療的な処置・指導を求める患者のニーズに対して十分に応えられない可能性があるからです。
メディカルフットケア資格の代表例としては、一般社団法人日本フットケア学会が実施する『フットケア指導士』があります。受験条件として医師、看護師、理学療法士、介護福祉士などの国家資格を有している必要や、それらの資格業務に従事する中でフットケアの実務経験を有していることなどが挙げられ、5年毎に更新の必要もある非常に実践的な資格制度になっています。ただ、既にフットケアに従事している人を対象とした認定であり、フットケアに興味があっても実務経験が足りない人にとってはややハードルの高い資格です。
東京都で訪問看護事業を展開する株式会社トータルライフケアのメディカルフットケアアカデミー“FUSSMEDI”(フースメディ)は、訪問看護の現場でメディカルフットケアを行っている看護師や理学療法士が講師となっており、メディカルフットケアには欠かせない解剖学や運動学も詳しく学ぶことができます。また実習に約30時間をかけているため、初めてフットケアを学ぶ人も、今までのフットケアでは物足りない人も、卒業したその日から使える実践的な知識とスキルを身につけられます。
まとめ
メディカルフットケアを提供する医療側の課題として、人手不足やスタッフの知識不足が足かせとなって十分な対応ができていないことが挙げられます。またメディカルフットケアは継続した経過観察も不可欠ですが、患者側にその認識や自己管理、家族の協力といった点が不足しがちなことも大きな課題です。
メディカルフットケアの確かな知識や技術を身につけ、フットケアの価値を自分の言葉でチームの仲間や患者に対して説明し、理解や協力を得て十分なケアを提供できるようにしていきましょう。

フットケアスキルを身に着けることで、医療スタッフとしての価値を高めることができる