エンゼルケアの考え方と
看護師の役割② 2018.10.17

本人が亡くなった後に、外見を少しでも生前の元気な頃の姿に戻して、送ってあげるために行う死後の処置がエンゼルケアです。病院で亡くなった場合は、看護師がこの多くの役割を担います。前回はエンゼルケアの考え方と大きな流れを説明しましたが、今回は具体的に部位別に見て、遺体の状態に応じた対処法があることを説明します。




部位別エンゼルケアの手法

エンゼルケアでは具体的にどんな状態やトラブルが想定され、どんな対処ができるかを説明しましょう。

①顔面に外傷や腫瘍がある場合

顔面は死後もほぼ隠されることなく、もっとも目立つ部位です。
ここに外傷や腫瘍がある場合、エンゼルケアではそれらを可能な限り目立たなくすることを重視して行います。ただし状態により修復に限界がある場合があります。家族の中にはできる限りの修復を希望することもあるため、そういう希望に応えられるよう、近隣でエンバーミング(遺体に保存処理・修復処理などを行い、長期保存を可能にする技法)のサービスを行っている業者、技術の高い葬儀社があるか調べておきましょう。

【陥没のある顔面裂傷への対処】
(1)汚れや分泌物を洗浄・除去したうえで、ポビドンヨードやアルコールなどで消毒する
(2)陥没部にガーゼなど詰め物をして陥没をなくす
(3)詰めた部分を縫合する
(4)縫合した上に肌色の不織布テープを貼る
(5)創部を外気から遮断し、浸出液の流出を防ぐためフィルム材を貼る
(6)ファンデーションが馴染みやすいよう、さらに肌色の不織布テープを貼る
(7)クリームファンデーションやパウダーでメイクを行う

この対処法を基本としながら、外傷や腫瘍の症状によってアレンジします。
陥没がない裂傷などの場合は、(2)の詰め物は省略します。
陥没した顔面腫瘍で表皮が弱い場合、(1)の洗浄は最小限にし、(3)の縫合もせずに対応します。
このように、必要に応じてできる対応を心がけましょう。

②顔に黄疸が出ている場合

顔面に関して、もうひとつ心得ておくべきは黄疸に対する対処です。黄疸は全身に生じるものですが、特に露出する顔面が目立つからです。
黄疸は、臨終時には「黄色」→死後約24時間から約36時間で「淡緑色」→死後約36時間から約48時間で「淡緑灰色」へと変化します。こうした黄疸の特徴を把握し、どの程度黄疸を隠すか方針を定め、適切なメイクを施します。

③頭部に外傷や腫瘍がある場合

頭部に裂傷や切創がある場合、汚れや分泌物の除去・消毒、縫合を行います。頭部も可能な限りフィルム材やテープを貼ることで外気を遮断しますが、頭髪などの状態により難しければ、医療用接着剤を使用するなどして対処します。これらの処理をした痕跡は、本人の毛髪やかつら、場合によってはスカーフや帽子なども使い見えないようにします。

④鼻翼・口唇に潰瘍ができている場合

長い治療時期を経て死亡した場合など、チューブ類が鼻翼や口唇を圧迫して潰瘍を引き起こし、欠損が生じてしまうことがあります。この部分は潰瘍によって暗赤色に変色している場合が多いため、その色を目立たなくします。

【鼻翼の潰瘍への対処】
(1)フィルム材を貼って該当部分の外気を遮断する
(2)不織布テープを貼り、潰瘍の色を目立たなくする
(3)クリームファンデーションを塗る
(4)パウダーをのせる

ただし、潰瘍部がすでに乾燥している場合は(1)を行わず、直接不織布テープを貼ります。 口唇の場合は、(3)のファンデーションと(4)パウダーを塗る代わりに、口紅を塗ってカバーします。

⑤まぶたが閉じない場合

臨終後はできるだけまぶたを閉じます。閉じていないと、眼球が乾燥して変色してしまうためです。
通常は、臨終の告知を行った後、お過ごしの時間の前に、家族に了解を得て閉じます。その場合は、手で撫で下ろすようにします。
ところが、それだけでは閉じないことがあります。その場合は、エンゼルメイクの場面で行います。具体的には、顔のクレンジングマッサージを行っていく際に、額から順に撫で下ろす手付きをしていれば顔が緩み、自然にまぶたが閉じることがあります。
それでも閉じないのであれば、二重まぶたをつくる化粧品を利用する方法があります。上下のまぶたの縁に液を塗り、まぶたを閉じさせ、接着効果によって開かないというものです。こういう方法もあるということを覚えておきましょう。

家族の意志や要望によっても、どこまでエンゼルケアを行うかが変わってきます。

⑥口が閉じない場合

口が空いているまま時間が経つと、口腔内に外気が入り込んで乾燥が進むため、口を閉じます。また、口が開いたまま死後硬直が始まると、ずっと開いたままになりかねません。口を閉じることもエンゼルケアのひとつです。
方法はいくつかあります。
【口を閉じる方法】
(1)枕を高くし、顎の下にタオルを当てる
数時間で顎の部分が固くなり、口が開かなくなるため、そうしたらタオルは外して大丈夫です。
(2)入れ歯安定剤を使用する
顎は閉じた位置にありながら、上下の口唇が接していないため口が開いている状態のときには、入れ歯安定材を使用する方法があります。歯の表面と口腔内に入れ歯安定剤を薄く伸ばし、口唇を接するように口を閉じ、しばらく押さえます。
(3)チンカラーを使用する
チンカラーとは遺体の口をワンタッチで閉じさせるマウスコルセットです。家族にこういう器具の説明をしたうえで使用するかどうか相談します。

⑦入れ歯が入らない場合

歯があるかないかで、容姿の印象を大きく変えることがあります。しかし、闘病生活が長いとその間は入れ歯を使わずに過ごし、いざ入れようとしても入れることが困難な場合があります。
そこで、入れ歯を入れる際のポイントを把握しておきましょう。

【入れ歯を入れる方法】
(1)本人の使用している入れ歯を通常通り入れてみる
亡くなる直前まで使用していた場合は、スムーズに入ることもあります。上顎を装着した後、下顎の入れ歯を装着します。
(2)エンゼルメイク用義歯を装着
エンゼルメイク専用に開発された入れ歯(エンゼルデンチャー)の使用を試みます。やや小さめに作られているため、通常の入れ歯より装着しやすいです。上顎のみ、下顎のみ、一部のみなど、部分的な使用も可能です。

⑧鼻出血・耳出血がある場合

エンゼルケアの最中に鼻や耳から出血することがあります。亡くなった後は血液の状態が生前と異なるため、止血しづらい場合が多いです。圧迫止血はほぼ効果がなく、出血は一定時間続きます。

【鼻出血・耳出血への対処】
(1)鼻出血の場合は枕を低く、右耳出血の場合は右耳を高めにするなど、体位を変える
(2)出血を吸い取るため、ティッシュペーパーや紙おむつなどを当てる
(3)少量の出血ならその勢いを抑えるために、綿に染み込ませる

ただし、綿には止血する効果を期待できませんので、綿に染み込ませることでワンクッション置く程度と認識し、家族にもそう説明します。また、一定時間経過すれば出血は必ず止まることも併せて説明しましょう。

⑨頸部に気管切開部がある場合

治療などで頸部を切開した創部が残っていることがあります。気管は肺と直結しているため、腐敗が進むと切開部から異臭を放つ恐れがあります。エンゼルケアにおいてはしっかり密閉しましょう。その際には、脆弱になりがちな内臓を傷つけないよう配慮します。

【気管切開部の対処】
(1)チューブを外し、乾燥防止として覆ってあったガーゼを外す
(2)粘膜を傷つけないよう注意しながら、そっと痰を吸引する
(3)アルコール綿で創部と周囲を清拭する
(4)皮膚接合用のテープを貼る、または縫合する
(5)乾燥防止のためにフィルム材を貼る
(6)創部を目立たなくするため、不織布テープを貼る
(7)必要に応じてファンデーションで整える

場合によってはスカーフなどで見えないようにする方法もあります。



エンゼルケアの方針を確認する

こうして主なトラブルに対処する方法の一端を説明しましたが、これらの他に胸部や腹部、陰部、四肢などにもトラブルが発生する場合があり、それぞれの対処方法があります。
このように、エンゼルケアはその人の病気やケガの種類や症状によって対処法が変わります。また、家族の意志や要望によっても、どこまでエンゼルケアを行うかが変わってきます。
それぞれの医療施設で、エンゼルケアの基本方針を定め、必要に応じてマニュアル化しておくことが肝要です。
また研修などでその知識を深め、いざ実践する際には迅速に行えるように準備しておく必要があるでしょう。

参考:「ナースのための決定版エンゼルケア」(学研)





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