全国34か所にある労災病院グループの一つである『東京労災病院』は、羽田空港もほど近い東京都大田区に立地し、病床数400床を擁する急性期医療の重要拠点です。
地域医療支援病院の承認を得て、地域医療の中核を担う病院として患者の入退院支援に力を入れています。また災害発生時は地域の救護拠点として活動する東京都災害拠点病院の指定も受けており、地域住民の健康の砦となる救急医療を支える存在です。
LALANURSEでは、東京労災病院の関係者の方々へのインタビューを実施。全2回の特集記事として、2週に分けて公開します。
第2回となる今回は、東京労災病院に勤務する看護師長のマケンジさんにお話を伺います。
(第2回/全2回) 第1回はこちら
人の上に立つことによる意識の変化
— ご自身が看護師長に就任されてから、それ以前と意識が変化したことを教えてください。
「『判断』・『意思決定』・『責任』という、この3つの言葉の重みというのを強く感じるようになりました。看護師長は日々多くの出来事にいつも直面していて、それらに対してどのように主体性を発揮していくかということが求められます。瞬時に判断・意思決定せざるを得ない場面があり、そこにはすべて責任がついてくるということです。
私自身が看護師長補佐のときによく感じていたのは、師長がいないときに限って大きな問題が発生するということです。他の師長補佐やスタッフたちからも同じことを耳にしたりすることがありますが、この判断・意思決定・責任という言葉の重みを常に意識し、速やかに対処している看護師長の下で働いていたからこそ、『師長がいないときに限って』と感じていたのだなと、私自身も師長になってから気づきました。
そして、レジリエンスもすごく意識するようになりました。我慢することとはまた異なり、目の前に生じた問題や逆境に、柔軟に対応できるようにと考えています」
— ご自身の目標になった上司や先輩の看護師はいましたか?
「これまで出会ってきた上司や先輩方は全員個性が違って、どの方からも学ぶことがすごく多かったと思います。『この人のように』というよりは、それぞれのいいところを自分のものにすることを考えてきました」
ベストパフォーマンスを引き出すチーム作り
— 看護師を束ねる看護師長という立場として、業務を円滑に推進できるよう心がけていることを教えてください。
「チーム力を維持・向上させるための支援を心がけています。チーム力を発揮するためには、看護師一人ひとりのベストパフォーマンスを引き出すことが必要だと考えています。それを引き出すための方法の一つが、まず健康管理です。
看護者の倫理綱領の条文のひとつに『看護者は、より質の高い看護を行うために、看護者自身の心身の健康の保持増進に努める。』とあります。私自身、看護を提供する看護者自身が心身ともによい状態であってこそ、よりよい看護を提供できると思っています。
しかし、急性期医療機関では、入院期間が短縮している中、超高齢化のあおりを受けて、急性期医療を必要とする認知症高齢者の割合が増加している現状です。
このような中で現場の看護師が疲弊したり、やりがいをなくしてしまったりすることを回避するために、環境の整備が必要になってくると考えています」
— その他に、看護師のベストパフォーマンスを引き出すためにはどのようなことが重要でしょうか?
「他に、三つあると考えています。二つめは、看護師一人ひとりの個性を大事にするということです。本人が気づかずにいる良さに気づき、それをともに育んでいく。スタッフ間でも一人ひとりが自分を知り、関心をもって相手を知る。お互いに尊重し認め合って看護に励んでもらえたらと思っています。
三つめは、チームや看護師一人ひとりを大切にして、外部環境から守ることです。私自身がスタッフとしてあらゆる管理者の下で学んでいた頃の経験からも、対外的に擁護してくれる姿勢を感じられたときには、安心して看護に励むことができたと感じています。また必要なデータをもってアサーティブに要望を伝えていくことが必要だと考えています。
最後に、四つめは、一人ひとりのキャリア開発の支援です。これに関しては、後ほど病院の支援制度について詳しくお話したいと思います。
これら四つについて、全てパーフェクトにできているわけではありません。これらを課題として、日頃から心がけるようにしていることです」
— チームメンバーが働きやすくなるように取り組んでいることを教えてください。
「ベストパフォーマンスを引き出すためにも、ワークライフバランスをよくすることが必要と考えています。そのため勤務計画の立案の際は仕事以外にも視野を広げて、趣味や多くの経験、学びの時間を得るためにも、休みの希望をできるだけ考慮しています。仕事以外に視野を広げることは、英気を養うのみに留まらず、人間性を豊かにすることにもつながるのではないかと思います。
看護師という仕事を通じてあらゆる価値観や背景をもった人々と関わる上で、看護師自身が人間性を豊かにして対応できるようにすることも必要だと感じています。
また、私の部署ではコミュニケーションを図るために、みんなで食事に行ったり、仕事が終わってからプライベートなお話をして一呼吸置いてから帰ったり、といったことをしています。いろんな理由を作って仕事ではない場面でお互いを知るような話ができればと思い、声をかけつつ自分も参加するようにしています」

看護師長として高く意識をもちながら、チーム医療の推進に取り組むマケンジさん
看護師のキャリア開発を支援する東京労災病院の制度
— 東京労災病院のキャリア開発支援制度を教えてください。
「東京労災病院の看護部では様々な院外教育への参加を応援しています。例えば、看護部の推薦があれば研修や学会へ出張扱いで参加することができ、私の部署では今年度8名の看護師が出張扱いで学会に参加・発表しています。
より高いスキルを獲得するための、学習支援も行っており、専門看護師・認定看護師の育成を支援する制度や、大学・大学院・助産師学校などに進学するための奨学金制度もあります。この奨学金に関しては、修了後に一定期間当院へ在職することで返還の免除を受けることができます。
現在1名の部署スタッフが出張扱いで『脳卒中リハビリテーション看護』認定看護師の教育課程を受講しています。他にも大学院へ進学中のスタッフもおり、『高度実践看護コース』に参加しています」
— 労災病院グループの特色を教えてください。
「全国に34箇所ある労災病院グループでは、グループ本部が企画する研修があります。全国の労災病院から研修に参加できます。労災病院間での交流派遣や転勤を行う制度もあり、私自身もこれを活用して中部労災病院(愛知県名古屋市)に勤務した経験があります。一般病棟における緩和ケアを学ぶことや、看護教育観・看護管理観を養うことを目的として選択した病院です。中部労災病院のスタッフたちとともに学び働く2年間を過ごすことができました。
一つの病院に就職すると、他の病院で働くチャンスはなかなかないと思います。私はその制度を使って退職することなく異なる病院で看護経験ができ、数え切れないほどの出会いや学びがあり、とても貴重な機会になったと思っています」

全国にネットワークをもちながら、地域に根付いて医療を提供する東京労災病院
地域医療を支える仕組み作り
— 地域医療支援病院に指定されている東京労災病院が取り組む、地域とのコミュニケーションについて教えてください。
「2017年の4月から、入退院支援センターを開設しました。そこではPFM(Patient Flow Management)看護師を中心に、病院と地域を結ぶ架け橋となるように努めています。
また、2016年10月には地域包括ケア病棟を開設しています。入院前から在宅医療まで患者さんが安心して医療を受けられるよう、院内・院外の多職種の方たちが連携して切れ目のない支援ができるように努めているという状況です。
他にもケアマネジャーや訪問看護ステーションといった連携先への訪問や懇話会の開催・参加などでコミュニケーションを取ったり、方針や課題、継続的な看護の方法を共有するための退院前カンファレンスを連携先を含めた多職種で行い、情報を共有しています」
— 院内における専門看護師・認定看護師の人数や活動について教えてください。
「現在、当院では専門看護師が1名、認定看護師が13名在職しています。全国の労災病院グループの中でも、割合として多い方ではないかと思います。遠山の話にも登場した退院後訪問では認定看護師が同行するという活動を行っており、認定看護師による公開講座も開催しています」
管理者としての後進育成
— 看護師として、今後のキャリアの展望を教えてください。
「看護管理者としての更なる成長に向けて研鑽を積んでいきたいと考えています。引き続き取り組んでいきたいことは、やはり人材育成です。遠山のような次期管理者の育成や、患者の多様性に対応できる看護師の育成に力を入れていきたいと考えています」
